グループ会社が“離反顧客の受け皿”になれているか?も分析可能
MZ:車は買い替えサイクルが長いですが、NPIを活用すれば、次の購買機会が来る前に、顧客の心が離れているかどうかがわかりますね。今のシェアが安定していて危機感がなかったら、このリスクに気づかないかもしれません。
竹中:そうですね。NPIは顧客の心理を捉える指標なので、実際のマーケットで売上や販売台数が減少してしまう前に、その兆候を見出すことができます。NPIが低い、減少しているなら、その時点で理由の分析や打ち手の議論を始められます。
MZ:なるほど。ではもうひとつの結果をうかがえますか?
竹中:こちらは、それぞれのメーカーの顧客についてNPIを取得し、そのうち現在利用しているメーカー以外のNPIをランキングしたものです。簡単に言うと、「今のブランド以外なら、次はどのブランドを購入したいと思っているか」ですね。
注目は、このランキング内に各メーカーのグループ企業がどれだけ含まれているかです。トヨタの顧客がトヨタ以外で選んだメーカーは、3位の日産以外は実はすべてトヨタの関連ブランドやグループ企業です。顧客がトヨタ車を乗り換えても、顧客の離反を防げる、他メーカーと比べて非常に強力なポートフォリオが構築されていると言えます。特にスズキとダイハツは軽自動車が強いので、トヨタを離反した先に軽自動車の選択肢を用意している点は、バランスが良いと言えます。トヨタのフルラインナップ戦略の効果がNPIでも現れていると言えるかもしれませんね。もちろんこれを真似ることができる企業はほとんど無いのですが、これは強者だからできる戦略ですね。
一方、日産は三菱およびルノーとアライアンスを締結していますが、日産から離反した場合の候補にいずれも入っていないので、日本においては、メーカーをまたいだ離反防止のポートフォリオとしては機能していないようです。

これは2020年8月時点、あくまでNPIによる分析のケーススタディとして調査したものあり、各メーカーの戦略を知る立場ではありませんが、そうした第三者の立場であっても、この程度の分析は可能です。年単位でNPIやu-NPIを予測し、傾向を分析すれば、ポートフォリオの課題が見えたり、課題が顕在化する前に対策を講じたりすることができます。また、性年代や特定の習慣・心理属性を持つ人に絞り込んで同様の分析を行えば、また違う課題や伸び代が見えてくることもあるでしょう。
さまざまなカテゴリでNPIの有用性を検証中
MZ:ポートフォリオが機能しているかという分析は、グループ企業間だけでなく、社内のブランド間でも有効ですよね?
竹中:もちろんです。たとえば年代や家族構成の変化は車種を乗り換えるタイミングになりますが、そうしたときに社内に次の受け皿があるか、という検証が可能です。車に限らず、化粧品などでも興味深い分析ができそうです。
MZ:前回と今回の調査で、日用消費財と耐久消費財でのNPIの活用を研究されましたが、他にはどういったカテゴリで使えそうでしょうか?
竹中:外部に公開できるレベルで定量的な裏付けがあるかは、カテゴリによるのですが、他に飲食、金融、店舗ビジネス、BtoBを含むデジタルサービスやアプリなど30カテゴリ・500ブランド以上で9segsを作成し、NPIで分析をしてきました。実感としては、カテゴリを問わず、NPIは売上などの事業成長における上位指標に強い説明力がありました。
MZ:逆に、NPIを使いにくいケースはありますか?
竹中:直接、自社や自社ブランドについてNPIを確かめられないケースはあります。たとえばまったくの新規ブランドのときや、参入したばかりで「次も買いたい」と答える人のサンプル数が十分に得られないときです。
ただ先ほど申し上げたように、NPIによる分析や9segs作成の特長は、第三者の立場で市場のどのブランドも扱えることです。そのため仮に化粧品カテゴリで新規参入するなら、同市場で競合となり得るいくつかの企業やブランドの9segsを作成し、高いNPIを得ているプレーヤーの研究などを通して成長のキードライバーを理解できます。それを圧倒的に超えるか、まったく別の軸で戦うかなど、戦略のヒントが得られますよね。