配信のクオリティを高める、キャスティングと事前準備のコツ
MZ:次にキャスティングについてうかがいます。実際にライブコマースを取り入れようとしたとき、「誰に出演してもらうのか」は大きな悩みだと思いますが、なにかポイントはあるのでしょうか?
恩地:私たちはライブコマースに特化した人材を「コマーサー※1」と名付け、ゆうこす(菅本裕子)さんがファウンダーを務めるライバー事務所「株式会社321」と協業しながら、コマーサーの育成プログラムを運営しています。その中で見えてきた、重要な要素をご紹介したいと思います。
キャスティングについては、プロコマーサーとインハウスコマーサーという2つの軸で考えることができます。プロコマーサーはゆうこすさんのような、ライブコマースのスキルを持ったプロフェッショナルを指します。プロコマーサーには芸能人やインフルエンサーといった方々も多いですが、それぞれ得意な分野を持っているため、企業はフォロワー数だけでキャスティングするのではなく、相性の良いコマーサーを見極めることが重要です。
一方のインハウスコマーサーは、社員さん自らがコマーサーとなる場合の呼称です。社員の方々に配信手法を学んでいただき、自社で運営できる体制を作ります。
※1 アイレップが定義する人材の概念。リアルタイムにユーザーの質問やコメントに応えながら商品・サービスを自身の言葉で伝えるライブコマースに特化した配信者を指す。
MZ:それぞれ、どんな目的で取り入れていけば良いのでしょうか。
恩地:ライブコマースを「イベント」として設計するのか、「コミュニティ」として設計するのかによって、使い分けると良いと思います。
イベントとして配信する場合、プロコマーサーのキャスティングは話題を生み、“推し”の文脈からも消費を促せることが強みになります。一方、コミュニティ寄りの設計の場合、継続的な配信が重要ですので、毎回プロコマーサーをキャスティングするのはコスト面で現実的ではありません。
先ほど川田から中国の例を紹介しましたが、日本でイベント型のライブコマースを行う場合も、工夫次第で高い効果を上げることができます。たとえば、日ごろからインハウスコマーサーが継続しているライブコマースの間に、プロコマーサーの回を仕込んで「来週はあの人が来るから、見てくださいね!」と熱を高めていくと、当日大きく盛り上がります。
成功企業は「双方向性」「生の声」を活かしている
MZ:プロ・インハウス問わず、コマーサーにはどういったスキルが重要なのでしょうか?
恩地:「双方向のコミュニケーションを行えるかどうか」が大切です。イベントの文脈が強かった2017年頃のライブコマースではあまり注目されない要素でしたが、最近成功している企業を見ていると、視聴者のコメントを読み上げ、それに答える形で商品を紹介したり、ヒアリングした視聴者の声を商品開発に反映したりと、活発にコミュニケーションしているケースが多くみられます。
現在のライブコマースはデジタル上の接客であり、生活者は、ライブコマースを行う「コマーサー」に対して、実店舗のスタッフと同じようなコミュニケーションを求めています。やり取りを通じて生活者とのつながりを強化し、コミュニティ的な価値を高めている企業も多いです。
川田:ライブであることを活かして、商品に対する熱量や愛着、真剣さを伝えていくことも大切です。自社商品をよく知っているインハウスコマーサーは、ここに強みがありますね。
一方プロコマーサーも、商品理解の深さや商品に熱意の必要性を強く感じており、たとえばゆうこすさんは、商品情報をインプットしたり、ご自身で使用感を試したり、といった事前準備に時間をかけられています。企業側も、商品の詳細やこだわりを、事前にしっかりと伝えておくことをお勧めします。
恩地:また、ライブコマースはスマートフォンからの視聴が多いため、デバイス上のあらゆるコンテンツが競合となります。可処分時間の奪い合いの中で生活者に視聴してもらうためには、ライブコマースのコンテンツとしての価値を高めていくことが必要になります。