※本記事は、2022年4月25日刊行の定期誌『MarkeZine』76号に掲載したものです。
以下5名の方からコメントをいただきました。
アイレップ 武者 慶佑氏/The Breakthrough Company GO 小川 貴之氏
Sparty 西田 将之氏/ Virtusize 高橋 君成氏/
バニッシュ・スタンダード TSUKASA.氏
定期誌『MarkeZine』76号 特集:リテール最新動向
第1回:「顧客体験価値の向上」を共通ゴールにしよう。『小売DX大全』著者からの提言
第2回:鍵は「UXへの落とし込み」リテールビジネスの今後を消費者調査から紐解く
第3回:半歩先の進化が、より良い顧客体験に ユナイテッドアローズのEC・アプリのリニューアルから学ぶべきこと
第4回:「セブン-イレブンアプリ」で高まる店舗体験とその先にあるラストワンマイル構想
第5回:業界キーパーソンに聞くイチオシの買い物体験(本記事)
第6回:買い物体験を豊かにする、最新リテールテック
第7回:リテールテックで店頭体験は進化する──量販店などで導入広がる「リモート接客」の可能性
生活者の“デジタル生活”を捉えた購買体験に注目
★紹介した商品・ブランド
――最近の買い物体験の中で「良い!」と思ったもの、印象に残っているものについて、具体名とともに教えてください。
UNIQLOの特別コレクション(UNIQLO Uや+Jなど)の購買体験は未来的で気に入っており、よく利用しています。デジタル時代における生活者主体の購買体験を見事に紡いでいると感じます。
具体的には、日本での情報解禁を前に、UNIQLOの海外サイトから画像や情報を得てレビューをするYouTuberやインフルエンサーがいて、彼らのような熱心なファンが、コミュニティの盛り上がりを生んでいます。さらに日本の展示会に招待されたインフルエンサーによる実物レビュー、発売前日の公式ライブコマースで熱量が高まります。ライブコマースでは、サイズ感や質感の確認、さらにコメント・質問などを通して商品を深く知ることができます。
発売当日の早朝には、YouTuberがオンライン販売開始をライブ配信し、インフルエンサーは店舗で購入し、SNSで最速レビューをアップしています。さらに店員や購入者のSNSの投稿(UGC)を引用した公式アプリ「StyleHint」でサイズ感や感想なども確認できます。生活者は、売り切れるであろうものはライブコマースとオンラインで購入、少し気になっているものはインフルエンサーや「StyleHint」を参考に店舗で選べます。店舗ではライブコマースに出演していたスタッフの方も働いています。
このように、UNIQLOの特別コレクションは、生活者の“デジタル生活”を余すことなく取り込み、文化や生態系を作り出しています。応援しているインフルエンサーが初めて展示会に呼ばれたときは嬉しいものです。
――顧客の行動・心理が日々変わっていく中、良い顧客体験を届けるためにどんなことに気を付けて仕事をしているか、教えてください。
顧客行動や心理はどんどん細分化され、アルゴリズムで管理されたSNS時代は広告での情報は届きにくくなっていると考えます。現在私はライブコマースという手法を通して、人と人が双方向性を持って直接伝えるマーケティングに注力をしています。企業はSNSでフォロワーを増やし、エンゲージメントを形成してきましたが、これからは企業が顔を出し、ライブコマースを配信する“コマーサー”として直接視聴者と話し、顧客の一人ひとりが納得して購入できる“ダイレクトエンゲージメント”が、顧客体験の向上、コミュニティ形成、ひいてはLTVの向上につながると考えます。アイレップではインフルエンサーのゆうこすさんのメソッドを体系化したコマーサーの育成プログラムや、ライブコマースのKPI設計と検証運用ができる体制を整え、日々研究しています。そして何より、私自身がライブコマースを配信する側としても活動し、生活者との距離を見誤らないように留意しています。
株式会社アイレップ ライブコマース・エヴァンジェリスト 武者慶佑氏
酒蔵見学での忘れられない光景
★紹介した商品・ブランド
――最近の買い物体験の中で「良い!」と思ったもの、印象に残っているものについて、具体名とともに教えてください。
先日、増田徳兵衛商店という京都の酒蔵を見学させてもらいました。増田さんは主に「月の桂」というにごり酒を製造しています。蔵では発酵から絞りまでの様々な工程について説明を受け、大人になってからの社会科見学を楽しみました。
見学が終わった後、増田さんは月の桂を振る舞ってくれるといいます。グラスが並べられ、キンキンに冷やされた瓶を増田さんが持ってきます。見学で発酵された酒米のメロンのような匂いを全身に浴び続け、飲みたい気持ちも期待値も高まっている中、増田さんは「ちょっと待ってください」と言います。なぜだろうと一同きょとんとしていると、増田さんは、持ってきた瓶を赤子をあやすようにゆっくりとひっくり返しました。逆さになった瓶の中で、底に沈殿していた米の澱(おり)がふわりと舞っています。満開の桜が散るような光景と、丁寧に瓶を回転させる所作が美しく、見入ってしまいました。
お土産に数本購入し、飲むときには増田さんの所作を真似て開栓していますが、あの美しさを上手に再現することはまだできていません。あの光景見たさに、また購入してしまうのだろうと思います。
――顧客の行動・心理が日々変わっていく中、良い顧客体験を届けるためにどんなことに気を付けて仕事をしているか、教えてください。
ファミマル(ファミリーマートのPB)のデザインを担当することになったとき、お客さんとしてではなく、UXデザイナーとして全国各所のファミリーマートへリサーチに行きました。実際に商品がどのように陳列されているか、従業員が陳列する際の課題はないかなど、徹底的に観察をしました。
ファミマルのパッケージデザインは、このリサーチで見つかった課題をしらみ潰しに解決してできたものです。PBのパッケージをコンビニ体験をスムーズにするためのインターフェースとして捉え、そこで起きるエラーをなくすことをコンセプトとしました。デザインドリブンのブランディングは、デザイントーンのルールを制定し各カテゴリに落としていくトップダウンのやり方が多いですが、ファミマルでは、最低限のルールを作った上で各カテゴリが抱える問題の解決策を集合させ、一つにまとめ上げていくボトムアップのやり方を採用しました。
日々様々なクライアントと仕事をする上では、第三者としてプロジェクトに参加するのではなく、一歩踏み込んで当事者として請け負うようにしています。当事者になることで情報を深く吸収することができ、提案するアイデアのリアリティも増し、クライアントとも対等に向き合えるようになります。それができてはじめて、顧客に対して良い体験を提供できると考えています。
The Break through Company GO Head of Art 小川貴之氏