大切なのは「効果の可視化」ではなく「誰に何を伝えるか」
──2022年2月にラクスルから分社化し、ノバセル株式会社として新しいスタートを切って4月には複数の新規事業を立ち上げられました。詳しい事業内容は後ほどお伺いしますが、分社化、そして新規事業を立ち上げた狙いを教えてください。
田部:運用型テレビCM市場が拡大するなか、「ノバセル」も市場のなかでプレゼンスを確立してきました。今後の拡大に向け、より迅速な意思決定が必要ということで事業分割したという経緯があります。
そして、基幹サービスの運用型テレビCMに加え、新たなサービスを複数立ち上げました。これは、企業の宣伝・マーケティング部門が抱えている課題解決をしていきたいということでスタートしています。親会社のラクスルのビジョンは「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というものなのですが、私たちもマーケティングの課題解決に向け、これまで当然とされていた“仕組み”を変えることでより良い世界を作っていけると考えています。そのための事業ポートフォリオ拡張になります。
──現在のマーケティング業界が抱えている課題とは、どのようなものでしょうか。
田部:前提として、私たちは「運用型テレビCM」というサービスのみでビジネスを展開してきました。その中で感じたことが2つあります。1つは運用型テレビCMにおいて、効果の可視化以前に「誰に、何を伝えるのか」という戦略部分が成功の分かれ道であること。これをWho/Whatといいますが、これをおろそかにして、A/Bテストを繰り返すだけでは意味がありません。A/Bテストをするのであれば、まず戦略に基づいた仮説があって、それを検証するために実施すべきです。効果の可視化も、A/Bテストも、前提となる戦略が大切であるにもかかわらず、そこに十分なリソースがかけられていないという現実があります。
もう1つは、テレビだけで事業を成長させるケースは非常に少ないという点です。デジタルとテレビの運用が噛み合うことで、事業の成果を上げていく。これまで、私たちはテレビCM領域に特化していましたが、この2つを戦略という横串で刺して両輪を回していくことで、より事業成長を加速させていくことができるようになりました。
運用型テレビCMというと、どうしても可視化や運用に目が向きがちですが、マーケティングの本質は「誰に、何を伝えるか」ということだと思います。その軸で考えると、アウトプットはテレビCMだけではありません。YouTubeもあれば、Web広告もありますし、多角的に考える必要があります。戦略に基づいて、多様なチャネルを効果的に組み合わせていくことが必要です。
ここまでが前提なのですが、これを実現しようとすると、多くの企業は3つの課題に突き当たるのです。
マーケティング業界が抱える3つの課題
──どのような課題でしょうか。
田部:第一に、「テレビCMにかかる多額の投資を可視化できていない」という課題です。冒頭にあったように、テレビCMのイメージは悪く「効果が見えない」と考える企業が圧倒的に多数です。費用が高いのに効果が見えない、だから適切な投資判断ができない。実際に私たちが行った調査でも、テレビCM実施企業が広告代理店に望むことは、有名クリエイターによるCM制作ではなく「テレビCMの費用対効果を明確にしてもらえること」「マーケティング戦略が具体的であること」と答える企業が圧倒的に多かったのです。これがテレビCM衰退の大きな要因になっています。
第二に、「戦略人材とノウハウ不足」です。マーケティング戦略の重要性は多くの企業が認識していますが、前述した調査では「自社にノウハウがない」「顧客のニーズが把握できていない」という意見が圧倒的でした。ノウハウも人材もなく、加えてマーケティング予算も少ない中、顧客のニーズを把握しようとアンケートをしたいがやり方がわからず、分析から戦略立案もできないわけです。コスト・人材・ノウハウ不足によって、顧客調査に十分手が回っていないのが実情です。
第三に、「曖昧な広告費用への不満と費用対効果の説明」です。これは最初に挙げた「テレビCMの投資の可視化問題」にもつながるのですが、広告主は広告費用の適正値がわかりません。それが広告会社への不信感にもつながっていますし、裏を返せば「安い広告会社を選ぶ」という理由にもなっています。その不透明さを解決しなければ、この問題は解決しません。
もともと私たちは、「マーケティングを民主化する」というビジョンを掲げて事業を立ち上げています。“マーケティングの民主化”とは、誰しもが正しい効果を把握できる「広告効果を民主化する」ということ、そして誰しもがマーケティングを使いこなせる「プランニングを民主化する」ということです。これを具体的に事業化したのが、新たなサービスになります。