ニチレイがスタートアップと展開する自動献立作成アプリ「me:new」
MarkeZine編集部(以下、MZ):今回は、献立自動作成アプリ「me:new(ミーニュー)」の取り組みから、SNS上の声をどのようにマーケティングに活かしていくかについて話を伺いたいと思います。「me:new」では、JX通信社が2022年2月に発表した「KAIZODE(カイゾード)」をマーケティングリサーチに活用しているとのことですが、まずはニチレイが「me:new」の事業を開始するに至った経緯を教えて下さい。
関屋:ニチレイは元々、戦時下の食糧管理のために国策会社として設立された会社です。戦後の食糧難を救うべく、港に上がった水産品を迅速かつ効率的に内地へ届ける事業をメインに展開してきました。ですので、適切な価格帯でより多くの人に「おいしい」と言っていただけるような商品を届けることを長年ミッションとしてきました。
しかし時代は変わり、消費のスタイルはマスから個へと変化しました。食事についても、これからはマスのニーズに合わせた商品だけでなく、お客様一人ひとりに合ったものを提案していく時代になるだろうと考え、新規事業として献立提案のサービス「conomeal kichen(このみるきっちん)」を立ち上げたのです。ですが、食品メーカーとして新たに開拓する領域であるため、自社だけではなかなか実現しきれない部分もありました。そこで、同じミッションを持つスタートアップのミーニューと共に事業を進めることとなり、2021年10月からサービスを統合して「me:new」としてサービスを提供しています。
MZ:ミーニューのビジネスモデルは、どのようになっているのでしょうか?
関屋:ミーニューでは、BtoCとBtoBで大きく2つのサービスを提供しています。1つは、一般のユーザー様に広く使っていただくスマホアプリの献立作成支援サービス「me:new」の提供です。特長は、7日分の献立をまとめて自動で作成できること。これにより、献立を簡単に決められるだけでなく、食材の買い出しが楽になり、食材のロスも減らすことができます。メインターゲットは、「2~6歳のお子様がいて、時間のゆとりがない家庭の両親」です。小さなお子様でも食べやすいメニューをそろえており、大人と子供で献立を分けないといけない……という悩みにも応えています。
もう1つは、BtoB向けに提供しているクラウドの献立作成支援サービス「メニュープランナー」です。「me:new」の献立作成機能をクラウド化し、企業のホームページやアプリなどのサービスの中に組み込んで使っていただけるサービスを展開しており、生活協同組合コープこうべ様が現在自社のホームページで活用して下さっています。
宮本:生活協同組合コープこうべ様のアプリでは、食材を余らせることなく使い切れる献立を提案する新しい機能も搭載されています。レシピに忠実に作るとどうしても少し余ってしまう食材が出てきますが、食品ロスの問題もありますし、ユーザー側も「使いきれなかった」という罪悪感が残るので、これを解決したいとずっと考えていました。新機能では、献立の最終日に少し余った食材を「全部入れてしまって大丈夫です」という形で提案するアルゴリズムを用いています。
「KAIZODE」とソーシャルリスニングツールは何が違う?
MZ:ミーニューで活用しているKAIZODEについて、どのようなサービスなのか教えて下さい。
大矢:KAIZODEは、カスタマージャーニーに沿って消費者の抱える不満や未充足、その先にある消費者インサイトを発見するマーケティングリサーチサービスです。弊社は元々報道機関向けに「FASTALERT」というニュース速報サービスを展開しています。これは日々投稿されているTwitterの膨大な情報に対して言語解析機能を活用し、災害や事件、事故につながる投稿を抽出して「今まさに発生している報道すべき速報」を届けるというもので、これをマーケティング分野に応用したものがKAIZODEです。
たとえば、ある商品を購入する前は、本当に買うか悩んだり他社製品と比較検討したりしますよね。また、購入したら嬉しい気持ちになり、実際に使ってみたら「ここが良い」「ここは改善してほしい」などと具体的な感想が出てきます。Twitter上には、こういった購入前・購入後の各フェーズで消費者が抱いているファクトがあります。KAIZODEは、これをカスタマージャーニーのフェーズごとに抽出して、AIが独自に算出したスコアで重み付けすることで、消費者の抱える不満や未充足、その先にある消費者インサイトを発見することを可能にします。
MZ:「ソーシャルリスニングツール」とは、また違うのでしょうか?
大矢:一般的なソーシャルリスニングツールを利用していると、抽出した投稿から得られる「示唆」の発見は、個人の感覚に依るかと思います。かつ量が膨大だと「示唆」のあるツイートそのものを発見するのも一苦労です。そこで、KAIZODEでは「投稿のユニークさ」を判断するAIを独自に開発しました。自動的に投稿に対して重み付けをして、たとえば「〇〇はまあ良かった」という投稿はスコアを低く、「〇〇最高すぎて本社に足向けて寝れない」という投稿はスコアを高く算出します。KAIZODEはこうした機能化・自動化が得意です。
Twitterを活用した市場調査に向け「KAIZODE」を選定
MZ:ニチレイでは、どのような目的でKAIZODEを利用されたのでしょうか?
関屋:もともとは新規事業開発の領域で、Twitter上の声を収集して新しい事業のシーズを見つけたり、そのシーズに対して市場のリアルな本音を分析したりする狙いで利用を決めました。ですが、せっかく利用するのであれば、すでにローンチしていて、すぐに役立てられる分野がいいだろうということで、ミーニューで利用することになりました。
MZ:では、KAIZODEを活用してどのようなリサーチを行われてきたかご紹介いただけますか?
関屋:現在の「me:new」のユーザー数では「me:new」のキーワード単体で十分な声を集めきれなかったので、まずは献立に関する不満や悩みについてリサーチすることにしました。一般的に「献立を考えるのは大変」と言われていますが、具体的にどのような不があるのかを調査しようということになったのです。
MZ:調査の結果、どのような示唆が得られましたか?
大矢:今回の調査では、2022年3月1~31日の1ヵ月で「献立に関する困りごと/不満」に関する言及があったTwitter投稿の1,500件を抽出しました。さらにこの中から、「me:new」のメインターゲットである「子どもを持つ親」と推定できる一般ユーザーの投稿を抽出し、インサイトを探索しました。
具体的には、「赤ちゃん~離乳食の子どもを抱える親」「2~6歳の子どもを抱える親「小学生以上の子どもを抱える親」「料理するパパ」「その他」という5つの軸で分析を行っています。子供の年齢とユーザーの性別を軸にグループ分けし、特徴を整理することで、献立に関する不の背景を理解し、解決策の仮説に対する解像度を上げる狙いです。
こちらは実際の調査レポートの一部なのですが、同じ「献立に関する不」でも子どもの年齢によってさまざまな特性があることがわかりました。たとえば、赤ちゃんを子育て中の親の場合は、「とにかく食べてくれない」という不が最も大きく、続いて「親のメニューと赤ちゃんの離乳食メニューを別々に考えるのが大変」「大人の献立と同じ食材で離乳食の献立を考えたい」などの不もありました。これが幼児を育てる親になると、「食べてくれない」よりも「子供が歩き回るようになり、世話をしながら料理をするのが大変」という不が強く出るようになります。さらに、「仕事に復帰したら献立を立てる時間がない」という声もあり、「仕事と育児の両立という観点でマーケティングメッセージを作ってもよいのでは」といった議論のきっかけにもなりました。
見たい・聞きたい声を拾ってしまうという、マーケターの性
MZ:抽出した投稿の一覧をただ見ていくのと、そこからさらに重み付けされた結果を見るのとでは、「インサイトを分析する」という観点で活用の可能性がぜんぜん違ってくると思います。これらの結果は、KAIZODEで「献立」などのキーワードを入力すると自動で出てくるのでしょうか。
大矢:今回の事例に関しては人手と機械と半々でレポートを抽出しています。2021年7月から、重み付けについてもすべて自動化し、性別や年齢などの特徴を機械学習で自動分類する機能をリリースする予定です。
関屋:マーケターは、どうしても自分が聞きたい声のほうを聞いてしまいがちなんですよね。「やっぱりそうだよね!」という声は入ってくるのですが、自分が思いもついていない声は見落としてしまう。そして、自分が見落とすような声や情報には、自分でWebやTwitterで検索をしてリサーチをかけている時にも絶対に出合うことはできません。その点、KAIZODEではAIによる自動処理でユーザーの声が抽出されるので、これまでだったら見落としていたものもしっかり拾うことができる。さらに、声の大きさに基づいて重み付けもされているので、サービス改善の必要性や重要度も考えることができると思っています。
「KAIZODE」が目指す、洗練されたマーケティングコミュニケーション
MZ:JX通信社は、KAIZODEを通じてどのような世界観を創造することを目指されているのでしょうか?
大矢:色々な人が抱いている「本当はこうしたいのにできない」という欲求や不満に対し、「実はそれは私たちのサービスでできます」とコミュニケーションするのが、マーケティングの本来の姿の一面だと考えます。そのような洗練されたコミュニケーションを実現するために、ユーザーの潜在的なニーズを掘り起こすことができるのがKAIZODEの特長だと考えています。個別のプロダクトに対する不満や要望を抽出して対応するだけでなく、広く市場にある“不”に対し、「私たちならこのように解決できます」というふうに応えていくのです。
また、商品やサービスがメーカーの想定していなかった形でユーザーに利用され、新たな価値発見につながるケースもあります。たとえば「朝ごはん代わりに片手で食べられる総合栄養食品」があったとして、実際にどう食べられているかを見てみると、「忙しくてランチを食べられない隙間時間や移動中に食べる」という投稿が多数あり、そこで商品の別の価値に気づく、なんてこともよくあります。一般にこうしたインサイトを得るにはデプスインタビューを行う必要がありますが、KAIZODEでは“今”の投稿を抽出できます。マーケティングメッセージの企画だけでなく、新たな事業・商品開発につなげたり、商品・サービスの改良につなげたり、マーケティングプロモーションの仕方を変えていったり、というような変化を起こせると嬉しいですね。
ユーザーのリアルな声を切り口に「脱・メーカー発信」を目指したい
MZ:ミーニューではどのようにKAIZODEを活用されていきますか?
関屋:マーケティングメッセージを企画・発信する時に活用できると考えています。先ほど、「(育休から復帰して)仕事が始まったら、献立を考えたり買い物に行くのが大変」という声が調査結果の中にありました。実は、ミーニューでカスタマーサクセスを担当している女性も、様々なお客様とお話する中で「me:new」は仕事に復帰したばかりの人にニーズがある」と言っていたのです。お客様一人ひとりの声を見続けるというのは、チームの全員ができることではありません。KAIZODEで得たお客様の声やインサイトをもとに、メーカー発信ではなく、ユーザー目線でのマーケティングコミュニケーションをしていきたいですね。
また、マーケティングだけでなく、エンジニアのみなさんにもサービス改善の参考にしてもらえればと思っています。
宮本:これまでも、アプリのレビューを見たり、「me:new」に関するTwitterの投稿があったら社内のSlackで共有したりと、ユーザーの声をもとにサービスの機能改善のアイデアを出すことはしていました。ですが、どの声を優先すべきかを決めるのがとても難しいのです。それに対し、重み付けをした形でユーザーの声を把握できるという点で、KAIZODEはエンジニアとしても活用のしがいがあると思っています。
消費者理解で売上を伸ばす「KAIZODE」
曖昧で読み解くことが難しかったSNS投稿を、インサイトに沿ってわかりやすく要約する「KAIZODE」は、調査、分析、改善、実行にかかる時間を圧縮。さらに通常の調査ではなかなか出会えなかった消費者の「不満」「未充足」を発見します。
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