※本記事は、2022年6月25日刊行の定期誌『MarkeZine』78号に掲載したものです。
“現場”にこだわる実績から生み出された新パーパス
──昨今、「パーパスブランディング」への注目が高まっています。今年4月1日に事業会社として独立されたパナソニックコネクトも「現場から社会を動かし未来へつなぐ」というパーパスを策定されましたが、まずこの新パーパスに込めた思いをお聞かせください。
山口:パナソニックコネクトはパナソニックグループでBtoB向けソリューションサービスを提供している事業会社で、以前の「コネクティッドソリューションズ社」という社内カンパニーのときから、私たちは「現場」という言葉を大切にし「現場プロセスイノベーション」というキーワードを打ち出していました。これは「お客様企業の現場を私たちがサポートし、現場をイノベーションすることでお客様に価値を提供し、社会に影響を与える」、それが私たちの存在意義ということで、現場にずっとこだわってきたのです。それはパナソニック100年の歴史において変わることのない姿勢であって、「お客様にお役立ちをすること」が私たちのビジネスモデルです。
今回新たな事業会社として独立するに当たり、改めて私たちのミッションについて議論を行いました。するとやはり軸は「現場」なんです。この思いを、覚えやすくてインパクトのある言葉にするにはどうすれば良いかということで、I&COのイナモトさんはじめ外部の方々と社内の様々なステークホルダーと共に一生懸命考え、文章もたくさん作りました。その結果、現在のパーパスの言葉となりました。
イナモト:初めて山口さんとお会いしたのは数年前で、いろいろお話をさせていただきましたが、そのときの経験も今回は大いに役立ちました。普段私たちが関わっている仕事は、ゼロから新しいことを創り上げていくプロジェクトも多いのですが、今回はパナソニックコネクトが既に持っているものを引き出し、シンプルにわかりやすい形にまとめ、共感を促して社内外に浸透させていくという仕事でした。
山口:当社はBtoB事業なので、BtoCに比べるとやはりわかりにくいですし、事業分野もサプライチェーンから生活インフラ、エンタメなど非常に幅広いのが特徴です。私たちが社会に対し、どういうお役立ちを提供しているのかなかなか全体像がつかめない。ここをしっかり理解していないと、私たちが持っているものを掘り出すことができないのです。イナモトさんとはその点を議論しつつ、私たちが持っているものを掘り出す作業を進めていきました。
パーパスを作る際に意識すべきこと
──実際のパーパス策定はどのように進めていかれたのでしょうか? ポイントとあわせてお聞かせください。
佐々木:最近では様々な企業が次々に自社のパーパスを訴えて、まさに「パーパス祭り」の様相を呈しています。しかし壮大なパーパスを掲げたものの、そのパーパスはどのように達成できるのか、社員はそのゴールに向けて何をすれば良いのか、パーパスが達成されることで一般ユーザーは何を享受できるのかというように、企業のパーパスとステークホルダーがどう関係しているのかわからないものが多いのも事実です。素晴らしい青空の写真や地球のイメージを背景にパーパスを訴えても、実際に関わる人々の腹にストンと落ちなければ意味がないですよね。
そこで、山口さん、イナモトさんたちと数ヵ月の間フラットに意見交換を行い、何を訴求するべきかという議論を行いました。そこで出てきたのは、パナソニックコネクトの社員や関係企業、そしてお客様がパーパスにどう関与できるのかをわかりやすく表現することでした。現場が一般のお客様の生活にどのように貢献しているのか。機械やソフトと人がコラボレーションすることで何が実現できるのか。これらをわかりやすく伝えるような仕掛けを作ることで、社員の方々が「自分の仕事はこうやって社会につながっているのか」と実感でき、一般のお客様も「この商品・サービスが使えるのは、こうやって現場がつながっているからなんだ」と理解できるようなもの、それをまず実現したいと考えました。それがパーパスCM「かなえよう。」篇の表現です。
イナモト:本当に多くの企業がパーパスを打ち出しているので、私たちがまず考えたのは「パナソニックコネクトらしさ」を表現するということでした。つまり、他社では言えないこと、誰もが使える言い回しでないことが1つです。
留意したのは、すべての社員が共感できるようにパーパスを表現するということです。パナソニックコネクトは非常に幅広い事業を展開されているのですが、物流ソリューション事業の方、エンタメソリューション事業の方、地方の工場勤務の方、新入社員も定年を間近に控えた社員も、すべての社員が共感できる言葉として“現場から”社会を動かし未来へつなぐというパナソニックコネクトにしか言えないシンプルな表現になりました。
また、グローバルで通用するという点も重要でした。これも苦労したのですが、そもそも英語には「現場」という表現がないんです。最終的には「Change Work, Advance Society, Connect to Tomorrow.」という表現になったのですが、直訳のようで直訳ではない、簡単そうでかなり苦労した部分です。
山口:私たちの事業は多岐にわたっているので、何をやっているかというWhatを聞かれたら本当にバラバラなものが出てきます。一方でパーパスは「Why」、つまりなぜ私たちが存在しているのかという存在理由です。事業で見ると、やっていることや手法、つまりWhatやHowは様々ですが、根幹であるWhy=存在意義は1つしかありません。それを掘り出し、わかりやすい言葉を見出すことで、私たちは本当に1つの会社になれるのです。企業が存在する意義を全社員が同じ言葉で語り、しっかりと心でも理解する。これ自体が重要なパーパスの目的だと思います。