徹底的なリサーチから、眠っているニーズを探り当てる
白石:先ほど、社会構造的にマジョリティの中にいると、自分がマジョリティだとは意識しないという話がありました。一方、DE&Iという言葉にバイアスがかかりすぎていて、一人一人が自分の内面の部分にある、自身のマイノリティな要素を見つめる機会は少ないですよね。けれども、個人的には誰しもがマイノリティの要素を持ち合わせていると考えています。
「ゆるスポーツ」は澤田さん自身のスポーツマイノリティ視点が起点になっていますが、視点を変えるとスポーツってこんなに新しいものになるんだと、どの種目も驚くばかりなんですよね。たとえば「500歩サッカー」は、どういう種目なんですか?
澤田:500歩しか歩けないルールで、独自に開発した「500歩サッカーデバイス」が残り歩数をカウントします。そうすると、足が速かったりスタミナがあったりする人もむやみに走れないし、残り歩数が0歩になった時点で退場になるので、減ってきたら休まないといけない。休んで4秒目から、1秒ごとに1歩ずつ回復していきます。つまり、こまめに休憩するのがポイントになります。
白石:“休まないといけない”んですね。
澤田:そう、普通のスポーツと逆ですよね。これは心疾患のある友人と、激しく動けなくてもできるスポーツを考えよう、とスタートしました。
最初にやったのは、やはり徹底したリサーチです。心臓や病気のこと、それによって友人がどういう人生を歩んできて、何がしたいのか。また、スポーツ側の構造的な課題も探りました。「そもそも休憩を取ってはいけない」という負の構造に気づいて、それは人を排除するよな、と。そこから、コンセプトやルールを練っていきました。
課題の本質を捉えながら、ユーモアのある解決方法を提示する秘訣
澤田:自分のニーズを、本人もわからない場合があるんですね。たとえば長年スポーツを制限していると、できなくて当たり前、できないのは自分のせい、のような無意識の思い込みができてしまう。それを丁寧に対話して取り払い、これまで話せていなかった言葉が出てくる道を作る、という感じです。
そうして何度も話をすると、本人から「考えてみれば休憩をとってはいけないのがおかしいかも」といった声がようやく聞ける。自分ではなく、スポーツ側に問題があるのだと。
白石:なるほど。他の種目もそうですが、「500歩サッカー」の名称がそもそもおもしろいし、ルールにもクスッと笑ってしまう。澤田さんは課題の本質を捉えながら、ユーモアのある解決方法や接点となる言葉を提示するのが本当に上手だと思います。どんなことを意識されているんですか?
澤田:そこは、ある種マーケターとしての戦略です。歩数が減っていく「500歩サッカーデバイス」というハードウェアも、すごいんだかすごくないんだか、ちょっと妙ですよね(笑)。
でも、あくまでユーモアは開発プロセスの後半3割で盛り込んでいく。前半7割は100%、まじめです。つかめたと思うまでは、バイアスをできるだけ外して、当事者の方が一人の人として社会でどんな不都合を被ってきたのか、僕なりに全身全霊で耳を傾けていきます。
リサーチ不足、勉強不足なのに中途半端にエンターテインメントをかぶせると、ふざけていると受け止められて、ネガティブな反応が強く出ます。だから僕は、徹底的なリサーチと勉強をしたという土台が自分の中にないと、ユーモアを繰り出せないです。
【後編】は10月20日(木)に公開予定です。
