10月16日、日本マーケティング学会は、「マーケティングカンファレンス2022」にて、「日本マーケティング本 大賞2022」の受賞書籍の発表と授賞式を行った。
同大賞は、1年間に日本で出版されたマーケティング書籍(翻訳本を除く)を対象に、同学会の会員が推奨する優れたマーケティング書籍として投票形式で選出するもの。マーケティング理論や実践の普及のために開催されており、今回で5回目の開催となった。
本年は、10作品がノミネートされ、音部 大輔氏の著書『The Art of Marketing マーケティングの技法:パーセプションフロー・モデル全解説』が大賞を受賞した。
推薦理由:「マーケティングを技法として示す実践知の集約」
本書はプロマーケターとして開発と改良を続けてきた「パーセプションフロー・モデル」について解説し、かつ実践的な運用方法を示したものである。パーセプションフロー・モデルとは、消費者の認識変化を中心に捉えたマーケティング活動の設計図のことである。日用品からスタートしたその適用範囲は、耐久消費財、サービス、さらにはデジタル領域やBtoBに至るまで広がっていき、現在、数多くの企業がこのモデルを採用している。
筆者の25年以上にわたる実践経験に基づく記述は、特に実務的な評価が高く、その確立された方法論は学術研究でも参考となるだろう。また、このモデルが分かりやすく解説されており、顧客の立場で考えるというマーケターの基本に立ち返らせてくれることから、新人からベテランまで、多くのマーケターへの示唆が大きい著書だと言えよう。
準大賞に選ばれた2冊は下記の通り。
『ブランド戦略ケースブック2.0:13の成功ストーリー』田中 洋(編著)、同文舘出版、2021年10月刊行
推薦理由:「ブランド戦略の事例を理論で切り取った生きた教科書」
本書は、現代のブランド戦略事例をまとめたケースブックの第2弾である。取り上げられた13の事例は、製品とサービス、日用的なものから嗜好的なものなどバラエティに富み、時宜を得たものであり、大学生や企業人が実践的に学ぶのに適したものとなっている。
筆者は、各エクセレント・ケースが持つ「再現性」の高いエレメントこそが重要であると指摘している。真似できない所を羨むよりも、むしろ、現市場のコンテクストを見極めながら、どのエレメントであれば再現できるのかを考えるべきだという。そのために必要な理論が前半で示され、各ケースからどのようなことが学べるのかも添えられており、読者への配慮が行き届いている。また、実際にグループワークでの活用方法も示されており、大学・大学院、企業の研修等でのテキストとして利用しやすいことも高く評価される。
『マーケティングの新しい基本:顧客とつながる時代の4P×エンゲージメント』奥谷 孝司・岩井 琢磨(著)、日経BP、2022年1月刊行
推薦理由:「デジタルシフトの中、顧客を見つめるべきだという新たな方向性」
本書では、デジタル化が進む現代においてマーケターが目指すべきは、顧客の中で起こっている変化に気がつき、対応することだという。デジタル業界に詳しい筆者らが扱うトピックは、CRMやEC、IoTやオムニチャネル、サブスクリプションなど、長期的に取り組まれてきたトピックから近年流行しはじめたものまで多種多様である。また、デジタル革命が進む今日でも、オンラインだけでなくオフラインでの顧客行動に向きあうことは必要であり、答えが見つかりにくい中で、企業経営者は何をどのように考えればよいのかを指し示している。
テクノロジーベースになりがちな議論に警鐘を鳴らし、企業が新しい顧客との関係性を示すフレームワークを提示したことや、顧客視点を重視する意義を分かりやすく解説したことは、実務と学術の双方にとって有益であり、評価されるべきものである。
※なお、推薦理由は、2次投票の際に記入された個別の推薦理由を事務局でとりまとめたもの。
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