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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

マーケティングを経営ごとに 識者のInsight

「ブランドジャーナリズム」の実践を通じてマーケティングを加速する

カンヌライオンズで受けた衝撃

——日本における広がりは?

 国内では、5年ほど前から注目されるようになってきました。広告クリエイティブの領域から言われ始めた印象がありますね、「この広告ってブランドジャーナリズム的だよね」といった形で。社会的なイシューに向き合った海外の広告や企画が、カンヌライオンズなどで評価を受け、国内でも紹介されていきました。

 とても早かった事例としては、ユニクロ(ファーストリテイリング)の柳井正社長が2018年、『ポパイ』元編集長の木下孝浩さんを役員に迎えました。まさに、経営レイヤーからブランドジャーナリズムを実践していくのだなと感じました。

——林さん自身は、どういったきっかけで強く関心を持たれるようになったのですか?

 それこそ、カンヌが大きな気づきになりました。ずっとカンヌの取材をしたくて、2014年に念願かなって初めて現地に行ったんです。多分、日本の新聞記者の取材参加が初めてだったのではないかなと。そこで、まだ日本のジャーナリズムではまったく触れられていなかったLGBTQ+やジェンダーのテーマに触れ、とても衝撃を受けました。

 米P&Gが展開した「#LikeAGirl」という生理用品のキャンペーンをご存じですか? 少女に「女の子みたいに走ってみて」と言うと全力で力強く走るのに、大人たちはヘナヘナと走るという。

——覚えています! 女の子らしさ、なんて後から刷り込まれたものだという問題提起になりましたね。

 無意識のジェンダーバイアスをあぶり出した企画でした。でも、日本の新聞では取り上げられていなかったんです。経済部なのか社会部なのか、それとも文化部? と、どこが扱うのかすら定まらなかった。広告クリエイティブのほうがずっとジャーナリスティックなんじゃないか、企業の発信のほうが進んでいるのでは、と当時すごく驚きました。

 ちょうど、私自身が企業報道のあり方に悩んでいた時期でした。赤字転落を追及しながら、一方で社会的なイシューに向き合い、解決に乗り出したりもしている企業の活動は扱わない。どう扱っていいかわからないままでいいのかな、と。それもあって、ブランドジャーナリズムは“ジャーナリズム側の課題”を解決できる方法の一つにもなるかも、と思いました。

国際女性デーの報道とポーラの企業広告

——その課題とは、新しいイシューを扱う部門が定まらない、といったことですか?

 そうですね、それも含めて、歴史があり、経済部、社会部などと分かれているだけに柔軟なキャッチアップができていなかったのだと思います。SNSを通してデジタルで一気にイシューが広がる世の中に、少し後れを取ってしまっていたのではないでしょうか。

 2017年、朝日新聞は新聞社として初めて「国際女性デー」を特集しました。先輩の記者の方々が、海外の報道も踏まえて局長に働きかけ、ポーラの賛同で企業広告も入れて実現した特集です。

 この広告出稿が、国際女性デーの報道自体の後押しになったと思います。これが新しいイシューなのはわかるけれど、他のニュースを差し置いてまで報じるバリューがあるのか、読者が驚くのではと、正直まだ編集部では躊躇があったんです。広告が決まったので、踏み出した経緯がありました。企業やブランドの活動とジャーナリズムの挑戦が連動する、走りになった事例でした。

——企業の力添えが、新聞の業界を動かすことにもつながったのですね。今、国内にもその概念が浸透していく中、たとえば冒頭で紹介したイベントの際には、SNSにいろいろな意見が投稿されていました。議論が生まれたことは、イベントの成果の一つですね。

 はい、少し前に海外で起きていた議論が、今ちょうど日本で起こり始めていると思います。いろいろな意見が上がるのは、ポジティブな状況ですね。

 元々ジャーナリズムとマーケティングやクリエイティブの世界の間には接点がなく、むしろ壁があるからよいとも捉えられてきました。実質的にはPRなのにノンクレジットの記事や、ましてやインサイダーなどのリスクが生じてはいけないので、私も記者時代、お金儲けや広告出稿について必要以上に関知するなと言われてきました。

 もちろん今後も、ジャーナリズムの中立性は揺るぎないものです。ただ、お互いに壁を越えて議論することは、より良い企業発信やジャーナリズムを考えていく機会になると思います。

ブランドジャーナリズムは“手法”なのか?

——イベントの感想には、たとえば「ブランドジャーナリズムとは“手法”なのか」といった問いもあり、印象的でした。

 私も、そういう見方もあるんだな、と思いましたね。確かに、企業がこれを手法と捉えて「社会的イシューに向き合ってメッセージを発信することで、認知や顧客獲得につながる」と言われたなら、やはり違和感があります。

 マクドナルドが実践したように、多様な受け手に多面的なメッセージをジャーナリスト的なやり方で発信しようとするのは、あくまで伝え方の話です。そうした目線やスタンスを取り入れるのは、いろんな意味で企業活動のプラスになります。

——そこをはき違えると、大きくずれてしまいそうですね。

 そうですね。社会的イシューを扱っているようで、実は自社を利する目的を主眼にしている活動には、もう生活者も気づくと思います。

 この数年、企業がパーパスを明文化し、それを拠り所に経営していく「パーパス経営」が重視されつつあります。背景には、顧客や生活者から“言行一致”がかつてないほど求められている流れがあります。言っていることと行動がずれていると、今はすぐに指摘されます。社内への発信も外部にそのまま出てしまいますし、外向けのメッセージに社員が共感できないと、企業活動が維持できなくなることもあります。

 その際に、“伝えたい”ではなく“伝わる”をかなえるジャーナリズムの考え方が参考になると思います。

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読者の目線に対して誠実であること

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/11/25 16:33 https://markezine.jp/article/detail/40644

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