近い商圏にも単価の高い顧客はいた
MZ:福武さんが提案したプランに沿って分析を行った結果、どのような示唆が得られたのでしょうか。
杉本(三井住友カード):ステップ1の商圏別分析では仮説通り、遠い商圏に住む方のほうが単価は高い傾向が見られました。特に、遠方から一人でお越しの若い女性客は単価が高く、かなりコアなファンと言えます。一方で、近い商圏にも単価の高いお客様はいらっしゃいます。ファミリー層でおそらく年間パスポートをお持ちの方は、単価が高いことが見てとれました。このように、商圏別に高単価者の属性は異なるため、その違いを明らかにしていったのがステップ1です。
杉本(三井住友カード):ステップ2ではペルソナ分析を行いましたが、分析に入る前提として月別や時系列でデータを見ました。たとえば「夏休みとクリスマス」や「繁忙期と閑散期」で来場者層は異なると考えたからです。集客施策は当然、シーズンに応じて実行するもの。きめ細やかな施策を打つためには、シーズンごとの顧客像を精緻に捉える必要があります。
加えて、コロナ禍の前後における客層の変化も調べたところ、コロナ禍以前は若年女性と若いファミリーの割合が拮抗していましたが、コロナ禍以降は若年女性の構成比が上がっていたのです。コロナ禍以降の動態の変化として、利用者の移動をともなう業種で若年層の動きが活発な傾向はありますが、サンリオピューロランドの場合は他のテーマパークと比較しても、その傾向が特に顕著でした。
河井(サンリオエンターテイメント):パークの運営を通じて「若年女性のグループが増えてきている」という肌感覚は元々持っていました。感覚値を数字として明らかにしてもらえると、ネクストアクションを導きやすいので大変ありがたかったです。
ロイヤルティの高い顧客は“モノ消費”派だった
杉本(三井住友カード):これらの分析で得たファインディングスを踏まえて取り組んだのがロイヤルティごとのペルソナ分析です。ロイヤルティは「単価」と「来場回数」のマトリクスで定義し、そこに「性別」「年齢」「家族構成」「商圏」などの顧客属性を掛け合わせて約30のセグメントを作りました。その中から特に注力されたいセグメントを河井さまに選定いただき、選定されたセグメントの顧客に関して、直近1年分の消費データを分析する流れです。
福武(三井住友カード):実際にデータを見てみないとわからないことは多いので、分析のステップを細かく分けたり、ステップの合間でクライアントと密にコミュニケーションを取ったりすることが非常に重要です。特に深掘りするセグメントを決める際は、業界を熟知されたクライアントとの会話が不可欠だと考えています。
河井(サンリオエンターテイメント):様々な仮説を立てていただき、お話する機会も多かったため、我々としても注力するセグメントを安心して選定できました。
杉本(三井住友カード):分析した結果の一例を申し上げますと、「都心在住の若年女性」でも、サンリオピューロランドにおける単価が高い方と低い方とでは普段の購買傾向に差が見て取れました。たとえば単価の低い方は「コト消費」の傾向が強く、イベントやライブなどへ積極的に足を運んでいらっしゃいます。一方で単価の高い方は「モノ消費」の傾向が強く、日常的にリッチなお店でショッピングを楽しまれています。このような日常の購買傾向の差から、サンリオピューロランドへの来場動機や、園内での過ごし方のパターンについても、より具体的に類推できるのではないかと考えます。