SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

MarkeZineプレミアムセミナー

ビジネスに直結する「インサイト」発掘の手法とは?ユニリーバ 木村元氏が1から解説

インサイトの発掘から、コンセプトをアウトプットする

 インサイトの探索は、インサイトシートを埋めて終わりではない。最後はコンセプトシートを作成し、インタビューの実施や、コンセプトテストで最終化する。

 木村氏は、今度は「男性向けスキンケア商品」のインサイト発掘事例を挙げてその流れを説明する。

 30~40代の、比較的高所得な男性がターゲットだ。ニーズと既成概念を見ていくと、「スキンケアは夜にするもの」という思い込みがあることがわかった。しかし、実際は自分の肌の状況や顔つきを見るのは朝で、仕事に行く前になんとかしたいと思っている、というインサイトを捉えた。そこで押し出すべきベネフィットは「必ずしも乾燥や肌の改善のための良い成分が入ったプロダクトではなくて、瞬間的にハリを持たせて顔を明るくする効果がある、朝に使う炭酸泡の製品」ということになる。

 次にこれを、コンセプトシートに落とし込んでいく。木村氏は「最終的にコンセプトシートを作って、もう一度ターゲットの方に見てもらうのがよいと思います」と推奨。上手くインサイトを捉えているかどうか、ターゲットの反応で明らかになるからだ。

 コンセプトシートには、「インサイト」(図表7上)「製品紹介&メインベネフィット」(図表7中央)「RTB(Reason to Believe)」(図表7下)を含める。

図表7 コンセプトシート(男性用スキンケア例)(タップで画像拡大)
図表7 コンセプトシート(男性用スキンケア例)

 RTBとは、メインベネフィットの根拠となるものだ。インサイトがうまく捉えられてこそ、このRTBが説得力を持ち、ターゲットの購買行動につながっていく。「インサイトを考えずに製品を開発すると、RTBが長くなりがちです。インサイトやそれに応えるベネフィットが強いものがとにかく売れる商品になります」(木村氏)

 ここまで、インサイト発掘の前準備からコンセプトをアウトプットするまでの一連のステップを解説してきた。最後に木村氏は、マーケティング・プロセスの全体像に戻り、「しっかりとセグメントを切ったターゲットに対してのインサイト理解・コンセプト開発に時間を割いて、それでようやく事業計画やサービス開発に移っていくのが重要」と、最初のフェーズの重要性を改めて語った。さらに「STP分析やインサイトは、昔から言われているマーケティングフレームワーク。こうしたマーケティングの考え方は、本質でありつつも常にアップデートされるべき」と語り、セミナーの解説パートを締めくくった。

Q&A

 発表終了後、視聴者からの質問に木村氏が答えた。「表面的なニーズから、間違った既成概念を立ててしまうとインサイトおよび商品開発に影響を与えてしまうのではないか。そこのケアはどうやって行っているのか」という質問に対して、木村氏は「調査の反復」を推奨。ユニリーバはじめ、調査にコストをかける企業だとコンセプトに落とし込んだ後に必ず量的調査にかけて、ワークするかを確認するという。量的調査ができなくても、最低限ユーザーにもう一度ヒアリングをしに行き、反応を聞くことを繰り返すのが重要だとした。

 ちなみにユニリーバでは、調査を含めた独自のメソッドでコンセプトを評価し、点数が一定を超えていかないと、製品開発フェーズに進めない仕組みになっているそうだ。

 また、「調査にかける適切なコスト」についての質問に木村氏は、「本当に難しい。その会社やマーケティングチームが持つ予算次第」としながら、以下のように回答した。

 「全体の予算のうちの何%をかけるかは断定できません。ただ、月間でデジタルマーケティングに数百万規模をかけている場合、初期の調査にも広告費の1ヵ月分程度を捻出して、工数をかけてやったほうが絶対にいいと思います」(木村氏)

 一方で、PMFが完璧ではない初期フェーズのビジネスでは、あまり調査にコストをかけずに、デプスインタビューや知り合いの方へのインタビューを重ねて勝ち筋を見つけていく形になるとした。

 最後に、「当初の想定ターゲット以外にもヒアリングするか。その結果ターゲットやコンセプトの軌道修正もあり得るか」という質問があった。木村氏は「もちろんやります」と回答。

 スライドでは三色でセグメントボリュームを示した(図表3参照)が、「これを決めていく工程が難しい」という。だからこそ、ボリュームや自社ブランドの方向性を加味して仮説を立てながら、断定したターゲットだけでなく他の層にもヒアリングすることがある。

 木村氏は、「既に世の中に出している商品でも、ワークしていないのではと思ったら、ぜひフレームワークに立ち戻ってほしい」と話す。想定していたターゲット以外にもヒアリングし、新規ターゲットに合わせてコンセプトも焼き直すことで、プロダクトを立て直せる。

 コンセプトを変えるとデザインや広告クリエイティブにも影響するため、タイミングは要検討だが、「調査をして『ここじゃないな』とわかったなら、できるだけ早いタイミングでリブランディングするべき。後ろのフェーズのHOWで微調整をしてブランドがV字回復するのは見たことがないんです」と木村氏。新規プロダクトはもちろん、既存のプロダクトの成長にも、フェーズ1の調査とインサイトが重要だとした。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
MarkeZineプレミアムセミナー連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

岡田 果子(オカダ カコ)

IT系編集者、ライター。趣味・実用書の編集を経てWebメディアへ。その後キャリアインタビューなどのライティング業務を開始。執筆可能ジャンルは、開発手法・組織、プロダクト作り、教育ICT、その他ビジネス。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2023/01/12 09:00 https://markezine.jp/article/detail/40899

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング