インサイトの発掘は「マーケターの思考」が鍵
STP分析ができたところで、インサイト理解・コンセプト開発に入っていく。木村氏はここでインサイトを「顧客自身がまだ言葉にできていない潜在的なニーズ」だと改めて定義する。
なぜインサイトを捉えることが重要なのか。それはインサイトが、売れるプロダクトに必要な「独自性」を高めるための重要な鍵だからだ。
「独自性を高めるには、特許を持っていたり、他社が絶対に真似できないものを開発したりすることがもちろん理想です。ただ、これは本当に難しく時間もかかります。またプロダクト軸ではなく、クリエイティブの差別化で勝負することも可能ですが、代理店の手腕に任せることが多く、なおかつコストがかかることが多いです」と木村氏。その中で、まだ表面化されていないインサイトを発掘し、そこに刺さるように伝えることで、独自性を高めるのはコスパが良いという。何より「マーケターや事業の本質ではないか」と木村氏は述べる。
では、顧客自身も言語化できていないインサイトを、どのように掴めばいいのか。木村氏は、「インタビューで引き出すという方もいますが、顧客自身も認識していないのですからかなり難しいです」と話し、「マーケターが仮説を立てて発掘するしかない。ここには充分に時間をかけて、頭を使って労力を割くしかないと考えたほうがよいです」と、マーケター自身の思考の重要性を強調する。
しかし、いきなりインサイトを考えるのは難しい。木村氏は、自身が編み出したフレームワークを紹介し、インサイト発掘の実践のための流れを解説する。
インサイトを捉えるための実戦方法
まず、全体の流れとしては「表面的ニーズ」から顧客が思い込んでいる「既成概念」を捉え、その裏にある「インサイト」を掴むという。どういうことか。
たとえば図表4のように、D2C企業の担当者に、「自社の広告運用がよくない」という表面的なニーズがあったとする。

そこには「CPAを上げるにあたって、広告運用などのマーケティングがよくない」という既成概念があるわけだ。根本的なゴールはCPAを改善し、新規ユーザーをより多く獲得することにあるので、必ずしもサイトへの流入のための広告運用の良し悪しだけではなく、サイトに流入した後のユーザーの動きを見て、エントリーフォームの離脱率を改善する施策を検討する必要性があるはずだ。今ではEFOと呼ばれるようなエントリーフォームの改善は当然のように行われているが、ここ数年での動きになっており、様々なtoBツールが生まれている。toBの各企業も、このようにクライアントの本質的なインサイトを掴むことにより、常にアップデートされたインサイトフルなサービスの提供を行うことができるはずだ。
これらを順番に捉えるために、まず「表面的なニーズや事実を収集する」必要がある。これはデプスインタビューやn1インタビュー、ソーシャルリスニングを活用するとよい。
次に既成概念を捉えるためのワークとして木村氏は「ファクト&バイアスシート」を紹介。同シートでは、最初の調査から見えてきた事実を、セグメントごとにピックアップして羅列する。エクセルなどで管理するとよいという。たとえば、先述の低アルコール飲料の例では図表5のようになる。

このように既成概念が明らかになったところで、最後にインサイトをアウトプットする。アウトプットするインサイトシートは、図表6のようなものだ。

木村氏は「シンプルなパワーポイントの1ページなどに、調査結果を記載したりリンクを貼ったりしてまとめる」ことを勧めた。
ターゲットの表面的なニーズや既成概念の欄は「ファクト&バイアスシートからそのまま持ってくるのでよい」と木村氏。その上で、既成概念の奥にあるインサイト、つまり「ターゲットがまだ言語化できていない不満や、既成概念を解くための気づき」を書いていく。さらに、それに応えるための自社ブランド・サービスの機能的・情緒的な価値まで記載することが重要だという。そうすることで「インサイトの発見」で終わることなく、自社サービスのどの部分をベネフィットとして押し出していくのかまで明確にできる。
低アルコール飲料の例で言えば、「ある程度アルコール度数があるものを飲んでリラックスしたい」という表面的なニーズに対して、前図のように「度数が低いものは、味や香りのクオリティも低い」という既成概念がある。そして、その奥にあるインサイトは、ターゲットは帰宅後お酒を飲むことで「酔いたい」のではなく「一日の疲れを癒やすための美味しさや雰囲気を求めている」と捉えられる。
そうすると、インサイトに応えるベネフィットとして、「生のフルーツがふんだんに入ったカクテルサワーで、低アルコールにすることにより、フルーツ本来の味を引き出す製法を実現」といった魅力の押し出し方が刺さるかもしれない。