※本記事は、2022年12月25日刊行の『MarkeZine』(雑誌)84号に掲載したものです。
インサイトの前に重要な、ターゲットの定量分析
ユニリーバ・ジャパンで10年以上マーケティングに携わってきた木村氏は、消費財のマスマーケティングやブランドマーケティングを中心に担当してきた経歴を持つ。2021年7月にユニリーバ・グループのプレミアムスキンケアブランドを扱うラフラ・ジャパンの代表に就任してからは、グローバル展開を含めたマーケティング戦略を推進している。さらに、2021年にはBrandismを創立。ここではtoBを含めた企業に対して上流マーケティングの支援を行っている。
木村氏は、本セミナーのテーマである「インサイト発掘の手法」の具体的な話に入る前に、マーケティング・プロセスの全体像を提示した(図表1)。
これは、toC/toBどちらのマーケティングにも当てはまるステップで、新規事業やプロダクトだけでなく、売上が鈍化してきてマーケティング戦略を見直す際にも役立つプロセスだという。
フェーズ1はマーケットや顧客を理解する段階。木村氏は「このフェーズ1が勝敗を決めると言っても過言ではない」と重要性を強調する。フェーズ1はWHO/WHATを、フェーズ2、3はHOWを考える段階とも定義できるだろう。インサイトの理解は、そんなフェーズ1のなかに位置づけられる。
しかし、インサイトの前にやっておくべきことがある。それが「STP分析」だ。フィリップ・コトラーが提唱したフレームワークで、ブランドの立ち位置を戦略的に作っていく、上流マーケティングのプロセスだ。
STPはセグメンテーション、ターゲティング、そしてポジショニングの頭文字。セグメンテーションでは市場や顧客を細分化してボリュームを把握する。ターゲティングではそのうちのどの層を狙うのか決め、ポジショニングで自社のサービスの位置づけを決定する。
木村氏はその実際のプロセスを、女性向けの低アルコール飲料ブランドの事例を用いて説明する。
セグメンテーションでは、性別や年齢などのデモグラフィックで切り分けるほか、飲酒の頻度やお酒の種類、目的でもセグメントする。また低アルコール飲料は「お酒が強い人が休肝日に飲んでいるのか、あるいはお酒が弱い人が飲むのか」どちらのほうがボリュームが多いのか直感ではわからない。そのため、ここも切り分けておく。
そうすると、たとえば「女性、20代、お酒が好きで強い、飲酒頻度は週に1回未満、ワインをよく飲み、目的は友人と楽しく過ごすため」というパターンのターゲット像が見えてくる(図表2、緑部分)。
いろいろなターゲット像のパターンを仮定し、「それぞれのボリュームを算出することが非常に大事」だと木村氏。統計データを用いて、そのターゲット層が市場にどれくらい存在するかを出すことで、事業として狙うべきターゲットを定量的に分析できるわけだ(図表3)。
このように、インサイト発掘の前に、ターゲットを戦略的かつ定量的に考えることが重要だ。木村氏は「まったくボリュームがないところでビジネスをしても意味がありません。自分たちのブランドが向かう先として正しいユーザーを取れるのかといった観点で、まずはセグメンテーションやターゲティングをする必要があります」と、インサイト発掘以前のプロセスの重要性を語る。