購買や関係構築までのプロセスの変化を押さえるべし
有園:広告主側のデータとMetaのデータをマッチングして配信する、カスタマーオーディエンスは、私が過去にコンサルティングをしていた企業ではとても高い効果が上がっていました。一方、Facebookのファーストパーティデータを活用する配信方法の工夫も、そもそものInstagramのアカウント数が相当多くなっていると思うので、期待できますね。その上での広告主の課題を挙げるとすると、どういったことがありますか?
味澤:生活者の情報取得の仕方や購買行動が変わっているのに、そこに追いついていないことがとても多いと思いますね。
有園:追いついていない、とは?
味澤:今の利用者、特に10代や20代では、Instagramでものすごく検索行動をしているんですね。何か気になったもの、好きになったことを調べるのに、SNSを使っている方が多く、Instagramにおいて日本はその検索行動が、グローバルの5倍ほど顕著に高いんです。
そして、商品なりビジネスなりの評判を見て、購買を決める。人気のブランドならその周りにコミュニティができていて、そこへもすぐリーチできるので、一気に関与が高くなることもあります。他のSNSでも起きていますが、コミュニティの形成もInstagramは顕著です。多くのビジネスはその変化に気づいておらず、従来のまま「まず話題化」を目指してしまうのです。
有園:なるほど。昔ながらのプロセスを、もはや生活者は踏襲していないわけですね。
味澤:はい。その変化に気づいている一部のビジネスは、生活者の新しいプロセスを理解して活用し、ソーシャル上で効果的にブランドとの距離を縮めて、一緒にビジネスを盛り上げるような関係構築に乗り出しています。

メタバースは、人と人とのつながりをつくる延長上にある
有園:最後に、メタバースについてもお聞きしたいです。2022年10月、米Metaと米MicrosoftはVR領域でのパートナーシップを発表しました。提携により、Microsoft Windows 365やMicrosoft Teamsなどのツールが、VRヘッドセット「Meta Quest Pro」および「Meta Quest 2 」で使用できるようになります。そもそも、メタバースをどう捉えていますか?
味澤:メタバースも、我々がずっと続けてきた「人のつながりをつくる」ことの延長線上にあります。ソーシャルテクノロジーの進化版ですね。ただしアプリに閉じず、アバターが様々なサービス間をシームレスに行き来できます。
現在のVRはゲームやエンタメが中心ですが、MR(Mixed Reality)においては、Quest ProとQuest 2で「パススルー」の機能を使い、ヘッドセットをつけてVRの世界を見ながら、デバイスの外の世界を重ねて見ることができます。さらにQuest Proは、外の世界をフルカラーで見ることができ、かつ距離感もより正確に掴めることから、より高精細でフルカラーの複合現実を可能にしています。これによって、働き方や教育、福祉などにもユースケースが広がりそうです。
2022年9月に発表しましたが、Metaと角川ドワンゴ学園で提携し、VRなどの次世代クリエイターを育てる教育プログラムも展開していきます(参考記事)。基本的にメタバースは場所によらないですし、属性や性別にもよりません。そうした部分から、新しい世界が始まってくると思います。
有園:楽しみですね。私は19歳のころ、交通事故に遭って半年ほど病院のベッドで過ごしたのですが、そのときに「インターネット空間ならこれでも仕事ができるかも」と思ったんです。今でも一定範囲で可能ですが、メタバースならもっと没入感がある形でできそうですし、先ほどの属性や、また身体性も超えられそうです。
味澤:そうですね、身体性によらない点はまさに究極のダイバーシティだと思います。まだ始まったばかりで“メタバース元年”のような状況ですが、考えたことを実現できるインフラやテクノロジーはそろってきているので、一層力を入れていきます。