「行動の循環」を設計するユーザーコミュニケーション
ヤマップは、登山地図GPSアプリ「YAMAP」を提供し、D2Cビジネスも展開する企業だ。同社でマーケティングを統括する小野寺氏は、ベネッセコーポレーションやネスレなどの著名企業でダイレクトマーケティングに従事。2019年からヤマップにジョインし、登山をテーマとしたファンマーケティング型の消費者コミュニケーションを牽引している。
本セッションでは、「人を動かす」顧客起点の行動マーケティングに関して、3つのテーマで話が展開された。
1つ目のテーマは「YAMAPとは何か」。電波の届かない山中でも現在地がわかるYAMAPは、無料で登山地図や写真保存など様々な機能を使うことができる。登山中のたどってきた道のりがGPSで記録されるため、道に迷っても来た道を戻れば安全に帰ることができ、遭難を防ぐツールとして役立つ。
さらに、登山で撮影した写真をコメントと一緒にアルバムのように記録を残せる「活動日記」という機能もある。これが、ユーザー同士のコミュニケーションを生むことになるという。
「活動日記は公開することができます。他人の日記や写真を見て、山に行きたくなる気持ちになる。他のユーザーからコメントが来ることもあるので、それが投稿者の励みにもなって、また活動日記をつけようというモチベーションになる。こんな機会を創出するサービスになっています。これを私たちは、『登山コミュニティを通した循環コンテンツ生産の仕組み』と呼んでいます」(小野寺氏)
つまりYAMAPというアプリは、カスタマーエクスペリエンスの好循環を生み出しているのだ。小野寺氏は、「承認欲求」をファンマーケティングの基礎と考え、「人に褒められたり認められたりして、また行動を繰り返すという循環を設計することが肝」とカスタマーエクスペリエンスの本質を語った。
承認欲求を刺激し、ユーザー同士の共助を促す仕組み
また、YAMAPに備わる「フィールドメモ機能」は、登山者同士の共助を促す仕組みとなっている。ユーザーは、登山道の中で迷いやすいと思った地点に地図上でマークを打ち、写真を投稿したりコメントをつけたりする。
すると、そこが道迷いの危険箇所としてシェアされ、次の登山者のための役立つ情報となる。そしてそのフィールドメモが「役に立った」という他者からのフィードバックが来ると、それもまた登山者の励みになるという仕組みだ。
「こういったコンテンツは、自社で全部制作しなければならないと思いがちですが、実はそうではないんです。人の役に立ったり感謝されたりすることが重要で、それはユーザーさん同士の共助をうまく促すことで成り立ちます。それもマーケティングの大切なポイントだと考えています」(小野寺氏)
小野寺氏はヤマップという企業について、「登山地図アプリの会社と思われがちですが実際にはSNSコミュニティの会社」と表現。アプリというプラットフォームを使い、情報が還流する仕組みを作っているのだ。
YAMAPは350万ダウンロード(2023年1月現在)を突破し、登山人口が約600万人と言われる中で国内トップシェアを誇るアプリに成長。圧倒的なデータ量が集まるため、膨大なデータを活かした社会課題解決の取り組みも行うことができる。