業界に先駆けてデータの安全な活用に取り組んできた
――どういった点で、2000年なのですか?
現在の主要プラットフォーマーが相次いで登場し、そのあと拡大していく過程で後発のプレーヤーも加わって、今の活況につながる基点になったのではと思います。今でこそ、サブスクリプションのビジネスも当たり前になりましたが、それが可能になったのもデジタルがここまで拡大したからですよね。振り返ると、成長産業の勢いがありました。その時期を経て、現在は生活者の行動様式もクライアントの課題も複雑化していますが、その分、さらにスピード感のあるおもしろい産業になっていると感じています。
――同感です。では、電通デジタル代表としてのミッションをうかがえますか? 今おっしゃったように、複雑化という側面の一端は、データの扱いにあるかと考えています。Cookieレスへの対応やデータガバナンスの問題、また生活者も自分のデータがどう使われるのかを意識する傾向が強まっていますが、そのあたりを含めてどういったことをクリアしていこうとお考えでしょうか。
まずデータの安全性に関しては、電通グループは業界に先駆けて取り組んできた自負があります。2016年からデータクリーンルームの活用を開始し、これまでに1,000件ほど、分析やそれに基づく施策を提供してきました。データガバナンスの重要性が増している現状も十分に認識し、蓄積してきたノウハウに基づいて、今後も生活者にとって安全・安心な情報の扱い方を強化していきます。

課題設定の重要性が増している
――データクリーンルームの活用に関しては、データの扱いに関して相当な水準の習熟度がなければ難しいと聞いています。その教育のために、一定の企業規模や体力も必要かと。
そうですね。電通のデータテクノロジーセンターという部署と連携し、各プラットフォーマーのデータクリーンルームを活用するための資格の運用と、その取得のための研修などの人材育成に注力しています。
――では、データを含めてもう少し俯瞰すると、ミッションとして何を見据えていらっしゃいますか。
ひとことでいうと、クライアント企業の課題設定と、その解決です。特に、課題の設定が非常に重要になってきていると思います。業務改善のためのDXはかなり進んでいますが、それを越えた取り組み、たとえば事業価値創造のためのDXや、売上・利益の伸長を見据えたDXといったことは、まだ模索中の企業が多い印象です。
今の世の中で“デジタルマーケティング”といっても、デジタルデバイスの話もあればデータの話もあれば、デジタルメディア、デジタルサービスなど多種多様な切り口や打ち手が考えられます。それだけに、企業の状況ごとに目的と喫緊の課題を特定するのが大事です。その上で、最適な策を導き出していきます。
クリエイティビティとデータの力を生かした支援
――確かに改善のためのDXの事例は増えていますが、事業創造や売上創出のためとなると、手が回っている企業は限られそうです。
そこを支援できるのが、我々グループの価値だと考えています。電通グループでは顧客の事業がよりよい社会の実現に寄与し、同時に顧客自身の成長にもつながることを支援しており、改善目的にとどまらないDXに注力しています。先ほど課題設定と言いましたが、別の表現だと「正しい問いを立てる」ことが我々にできることであり、すべきことだと認識しています。
また電通デジタルではパーパスとして、「人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変える」と掲げています。我々の生業を集約すれば“事業成長支援”ではありますが、そこにはやはりクリエイティビティが必要ですし、それによって人の心を動かすことが根幹にあります。
――正しい問いを立てて解決に導くことは、今後ますます重要になると思います。ただ、そのための経験値や総合力を備えた人材の育成は容易ではないと思いますが、具体的にどう取り組むのですか?
まずは、教育システムの整備が急務です。外部の力も借りますが、その点でもグループ連携が有効だと考えています。たとえばAI領域なら、データアーティストとの合併を4月に控えているので、教育も含めて連携を強めていきます。また外部なら、PMP(Project Management Professional)資格の取得支援や、各種プラットフォーマーが提供する研修なども積極的に取り入れていきます。
ご指摘のように、単一領域の専門性ではなく総合力が必要ですが、それもかなりデータが助けになります。たとえば顧客分析も以前よりずっと精緻にできるので、ターゲットをしっかり観察する鍛錬を重ねれば、データと自分の想像力の両輪で、顧客の姿を立体的に捉えることができると考えています。
