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広告「剃るに自由を」で共感を得た貝印が語る!サイコグラフィックに基づくインサイト発掘法


約360の媒体に取り上げられた「剃るに自由を」

 齊藤氏が広告を着想したきっかけは、同社の社員が体毛に対してふとこぼした「“ムダ毛”と言われてかわいそう」というつぶやきだった。そこで、体毛が世間からどのように思われているかを自社で調べたところ、SNS上に「なぜ女の子だけが毛を処理したり恥ずかしいと思ったりしなければならないのか」という声を見つけたという。

「体毛に対する後ろめたさ、社会的な偏見、圧力を感じている人が非常に多いのだと感じました。そこで、社会通念に疑問を投げかける『剃るに自由を』を制作したのです」(齊藤氏)

 2020年8月、渋谷の屋外広告や地下鉄電車内に掲出したこの広告は、国内外の約360媒体に取り上げられ、SNSの総リーチ数は1,226万を記録した。また、課題であった若年層におけるブランド認知も、広告掲載後には10%以上向上。広告を見た人から直接、「大企業が正しいエンパワーメントをしてくれることに勇気づけられた」「今後は貝印の製品を積極的に購入したい」といった連絡も寄せられたという。

 この広告で貝印は「女性は腋毛を剃るもの」という固定観念に一石を投じたわけだが、広告への反響は女性のみならず、男性からもあったようだ。そのことから、齊藤氏はある気づきを得たと話す。

「これまでは性年代などのデモグラフィックで顧客をセグメンテーションしていました。しかし、今回の『剃るに自由を』への反響から『デモグラフィックはもう古いのではないか』と思うようになりました。なぜなら、感想を寄せてくださった方々は『20~30代女性』など、一部の層に限らなかったからです。つまり、思想や考え方といったサイコグラフィックに今の人は共感するのだと実感しました」(齊藤氏)

サイコグラフィックで戦略を練り直す

 サイコグラフィックの重要性をさらに実感した例として、齊藤氏は2022年3月にローンチしたグルーミングツールブランド「AUGER(オーガー)」を挙げる。

「AUGERはメンズビューティー製品の国内出荷額の増加や『自分のために身だしなみを整えたい』という市場のニーズの高まりを背景に立ち上げたブランドです」(齊藤氏)

 齊藤氏はAUGERを起案した当初、ブランドのメインターゲットを「20~30代男性」とデモグラフィックでくくり、「男性の表情に爽やかさを」をコミュニケーション戦略のメッセージの一つに掲げていた。しかし、コミュニケーション戦略の中身を詰める過程で「デモグラフィックで考えすぎてしまっているのではないか」と感じ始め、サイコグラフィックで戦略を練り直したという。

 戦略を練り直すにあたり、齋藤氏はこれまでの調査結果を再度見直した。MMD研究所とスマートアンサーによるスマートフォンに関する調査(2020年12月実施)からは、20代男性(n=259)の過半数が一日に2時間以上スマートフォンを見ていることがわかった。

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「私自身、浴槽に浸かっている時間もスマホが手放せません。多くの男性がスマホを手放せなくなっている実態から『スマホ疲れ』というインサイトを導き出しました」(齊藤氏)

 さらに、貝印が全国の20~39歳の男性計800人を対象に行った調査(2020年9月実施)からは、8割近い人が髭剃り中に「無心になる」との回答結果が得られた。これらの結果を総合し、齊藤氏は「身だしなみの時間を通じて、スマホ疲れに陥っている人々は心と身体を整えることができる」と予想。そして「身だしなみを整える時間」こそがAUGERブランドの提供価値であると気づき、戦略とメッセージを捉え直した。

AUGERの新コミュニケーションメッセージは「心に触れて“整える”時間 Kiss our humanity」に決定した
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男性ビューティーツール部門でトップの売上に

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この記事の著者

那波 りよ(ナナミ リヨ)

フリーライター。塾講師・実務翻訳家・広告代理店勤務を経てフリーランスに。 取材・インタビュー記事を中心に関西で活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/05/19 02:32 https://markezine.jp/article/detail/41752

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