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第106号(2024年10月号)
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決済データで市場を紐解く!三井住友カードの「Custella」(AD)

データドリブンな温泉PRで観光消費単価アップを狙う 熊本県庁×三井住友カード×アド・セイルの挑戦

 新型コロナウイルス感染症に関連する規制の緩和にともない、国内外からの観光客が増加しつつある昨今。観光庁は観光資源を活かした消費の拡大・単価向上を推進しています。本記事では「温泉」という強力な観光資源を活用し、観光誘客プロモーションに取り組む熊本県庁の事例を紹介。同庁は三井住友カードとアド・セイルの協力を得て、観光消費額に基づくWeb広告のターゲティングおよび効果測定に臨んだそうです。具体的な実施内容と得られた成果を担当者にうかがいました。

デジタル活用を進める熊本県観光戦略部

MarkeZine編集部(以下、MZ):まずは皆様の自己紹介をお願いします。

冨永(熊本県庁):私は熊本県観光戦略部 観光企画課 観光創生班で班長を務めています。デジタルマーケティングや観光DXなど、新しいことへの挑戦が課のミッションの一つです。

浦田(熊本県庁):同じく観光創生班で、デジタルマーケティングを担当しています。少し前まで県庁のデジタルマーケティングは、Webサイトや動画の制作などデジタル“プロモーション”の趣が強かったのですが、最近はデジタルを活用してもう一歩踏み込んだ取り組みを推進しているところです。

(左)冨永氏(右)浦田氏
(左)熊本県観光戦略部 観光企画課 主幹 冨永由美子氏
(右)熊本県観光戦略部 観光企画課 主任主事 浦田瑛介氏

白石(三井住友カード):私が率いるデータ戦略部は、カード会社として消費者と事業者の皆様からお預かりしている大切なデータを活用することにより、両方のお客様に新しい価値を提供するチャレンジから生まれました。

 データ分析サービス「Custella」の提供を開始したのは、コロナ禍に入る前です。キャッシュレスデータなら「どこからどこへ」「何時から何時まで」という粒度で幅広い範囲の消費実態を捉えられるため、「日本人や訪日外国人の観光促進に取り組む各自治体のお役に立てるのではないか」という仮説からスタートしました。

荒木(三井住友カード):私はデータ戦略部のデータビジネスプランナーとして、自治体や民間企業、教育機関などに対して、キャッシュレスデータを用いたマーケティング支援を行っています。

(左)白石氏(右)荒木氏
(左)三井住友カード 執行役員 マーケティング本部 副本部長兼データ戦略部長 白石寛樹氏
(右)三井住友カード マーケティング本部 データ戦略部 データビジネスグループ グループ長 荒木仁志氏

近藤(アド・セイル):香川県を拠点とする広告代理店のアド・セイルで、Web広告事業に携わっています。様々な地方自治体や企業様が抱えている課題を、デジタルマーケティングの力を使って解決するお手伝いをしています。

鵜川(アド・セイル):私は広告運用担当として、クライアント向けに営業から広告配信後のレポーティングまで行っています。

(左)近藤氏(右)鵜川氏
(左)近藤氏(右)鵜川氏

温泉のPRで消費単価の底上げを狙う

MZ:観光業の再始動が全国的に進められています。熊本県庁の観光戦略を教えてください。

冨永(熊本県庁):「ようこそくまもと観光立県推進計画」に定める四つの戦略に基づき、各事業を進めています。すべての戦略に通ずるキーワードは「新たな観光スタイル」です。

ようこそくまもと観光立県推進計画の計画概要
【クリック/タップで拡大】ようこそくまもと観光立県推進計画の計画概要

浦田(熊本県):熊本県には阿蘇山や馬刺し、熊本城、くまモンなど、様々な観光資源があります。新たな観光スタイルの確立を目指すにあたり、私たちは温泉に注目しました。温泉は宿泊をともなうケースが多いため、高単価の消費を狙えるからです。

 最近は政府が推進するEBPM(※)の流れを受け、データドリブンかつ検証可能なプロモーションの実施が求められています。温泉を訴求するプロモーションを実施するにあたり、データ活用や効果検証のノウハウを持つ民間企業の力を借りるべく公募を行いました。

※Evidence Based Policy Makingの略称。証拠に基づく政策立案のことを指す

MZ:三井住友カードは熊本県庁の公募にエントリーしたそうですね。応募時に提案した内容を教えてください。

荒木(三井住友カード):事前に観光消費額を分析し、そのファクトデータを基にした広告・送客配信を提案しました。分析は我々の専門領域ですが、広告配信は専門外のため、以前からお付き合いがあったアド・セイル様に声をかけてご一緒することにしました。

「来訪は多いが消費につながっていない場所」の特定も可能に

MZ:応募企業の中から三井住友カードとアド・セイルを選んだ決め手はどこにありましたか。

冨永(熊本県庁):「何名がWeb広告を見て、そのうち何名が熊本県に来て、いくら消費したのか」を把握できる点です。これまではWeb広告が見られた量や見た人の居住エリアなどを中心に把握・分析していたため、新しいチャレンジに期待を感じてお願いしました。

浦田(熊本県庁):観光消費額でWeb広告の効果を測定できる点は魅力的でしたね。インプレッションやコンバージョンを示しながらWeb広告の数値を説明しても、県民の皆様からするとわかりにくいと思います。Web広告を見た人の来訪計測は一部行っていたのですが、消費額までは追えていなかったため、チャレンジしたいと思えるご提案でした。

近藤(アド・セイル):Web広告の来訪計測結果にキャッシュレスデータを重ね合わせると、「多くの人は来訪しているが、消費にはつながっていない場所」なども特定できます。プロモーションの実施後に得られる示唆が増えるため、大きなメリットを提供できると考えました。

シニア・ファミリー・独身女性を対象に広告配信

MZ:温泉をフックに熊本県庁×三井住友カード×アド・セイルの三者で取り組んだプロモーションの具体的な内容を教えてください。

荒木(三井住友カード):事前分析→広告・送客配信→効果検証の3ステップでプロモーションを実施しました。事前分析は2段階構成です。第1段階では熊本県非在住者≒日本人観光客の属性や購買の傾向を分析しました。第2段階では今回のプロモーションのテーマである「温泉の関連消費」に絞った分析を行い、「シニア」「ファミリー」「独身女性」という三つのペルソナ像を抽出しました。

荒木(三井住友カード):シニアは熊本県来訪者の中で最も大きな割合を占める層です。ゴルフや温泉でまとまった消費をしている優良な旅行客と言えます。ファミリーは来訪する人数が多くなるため、消費額も非常に大きいです。既に数多く来訪していますが、まだまだ高いポテンシャルを秘めています。シニアやファミリーとは対照的に来訪が少なく、チャレンジングな層が独身女性です。

近藤(アド・セイル):広告配信のステップでは、三井住友カード様が抽出した三つのペルソナ像を基に広告のターゲティングを設計しました。出稿媒体はGoogle広告(YouTube、リスティング、ディスプレイ)です。「熊本 温泉」で検索したことがある人はもちろん、シニアならゴルフ関連の検索、ファミリーならレジャー施設関連の検索をしている人を対象に各種広告を配信しました。

近藤(アド・セイル):リスティング広告を配信する中で、熊本に温泉があることは認知されているものの、個別の温泉地名と熊本が結びついて認識されていないことがわかりました。そこで広告のクリエイティブに「熊本の黒川温泉」などの文言を入れ、県名と温泉地名をセットで訴求するようにしたところ、コンバージョン率の向上につながりました。

具体的なワードを追加して実際に配信した広告のクリエイティブ
具体的なワードを追加して実際に配信した広告のクリエイティブ

近藤(アド・セイル):YouTube広告では動画を視聴した人のブランドリフト調査も行いました。「温泉が想起されているか」「比較検討に至っているか」「熊本県関連の検索行動が増えているか」などを調査し、広告の波及効果を測る狙いです。

カード会員向けメールのCV数も好調

MZ:一連のプロモーションから熊本県庁はどのような成果を得られたのでしょうか。

浦田(熊本県庁):大きく二つの収穫がありました。第一の収穫は、観光消費額と来訪者を結びつける手法です。このスキームを使えば効果計測がしやすく、来訪者・観光消費額の増加につながるプロモーションを実施できるようになると考えています。

浦田(熊本県庁):第二の収穫は、整理された基礎データです。今回得られた分析結果を蓄積していけば、経年の変化が捉えられるようになります。データは我々の政策立案にはもちろん、広く共有できれば学術分野や民間事業者の施策立案などにも役立つはずです。デジタルの力を使ってデータの即時性やカスタマイズ性、詳細性を担保すれば、観光統計データもさらに高付加価値化できるのではないでしょうか。今回の取り組みによって、熊本県の観光分野にデータドリブンなコミュニティをつくるための基礎的な部分を準備できたと感じています。

冨永(熊本県庁):観光誘致の取り組みを「デジタルプロモーション」から「マーケティング」にうまくステップアップできたと思います。分析結果を聞いて満足するのではなく、示唆を活かす方法や山のようなデータの読み解き方を教えていただいたため、次の一手を考えるステップまで進むことができました。

荒木(三井住友カード):今回、当社のカード会員向けにも熊本県の温泉を訴求するメールを配信したのですが、コンバージョン数はかなり高かったです。会員様に良いコンテンツを届けられたと思いますし、実際の消費額にも結びついています。

データは気付きの出発点

MZ:最後に、皆様が今後チャレンジしたいことをお聞かせください。

冨永(熊本県庁):データという土台を整えることで、熊本県への来訪者と観光従事者、そして県民の三方が満足できる観光の姿を目指していきたいと思っています。

浦田(熊本県庁):熊本県観光戦略部では様々なセクションの担当者がプロモーションを担っています。今後は観光消費額や来訪数を共通指標に全ての結果を横串でまとめるなど、観光DMPの構築に着手し、より効果的で全体最適化された誘客施策を行いたいと思います。

鵜川(アド・セイル):今回三井住友カード様の会員向けにメールでアンケートを実施したのですが、そのアンケートの設計は当社が担当しました。今後も定量データだけでなく、アンケートなどの定性データも参照しながら広告効果測定の精度を上げていきたいです。

近藤(アド・セイル):広告に限らずデータを読み解こうとするとき「勘・経験・度胸」を悪しきものとする人もいますが、それらがあってこそ仮説が立てられると私は考えています。今後も来訪計測をはじめとする新しい技術を取り入れながら、高いレベルの成果物を提供していくつもりです。

荒木(三井住友カード):熊本県庁をはじめ、全国の都道府県の地方創生を引き続きご支援していきます。また、今回ご一緒させていただいたアド・セイル様のように、広告以外で協業できるパートナーも継続して探していきたいです。

白石(三井住友カード):今回の取り組みは「デジタルマーケティングをリアル消費データで読み解く」という新しいモデルだと捉えています。新しいだけにまだまだ伸びしろもありますが、データは気づきの出発点です。今後も観光消費をスパークする事例を蓄積して、分析の精度を上げていきます。

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この記事の著者

和泉 ゆかり(イズミ ユカリ)

 IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:三井住友カード株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2023/05/22 10:30 https://markezine.jp/article/detail/41932