「ポテチの壁問題」をいかにクリアするか
鈴木:コロナ禍はだいぶ落ち着いたと言われていますが、多くの業界・企業はこの3年間で大きな変化を経験しました。おやつカンパニーの場合はどうでしたか?
髙口:実はそれほど変わっていないんです。コロナ禍初期の買いだめ特需により、一時的な売上の変化は確かに見られましたが、マーケティングチームではコロナ禍以前からトライしていた戦略を変えることなく続けていました。
髙口:私が入社した2017年の状況をお話ししましょう。当時は会社全体の売上が伸びていたものの、主力商品である「ベビースターラーメン」で、これまでと違う戦い方が求められていました。
鈴木:ベビースターラーメンと言えば、御社を代表するロングセラー商品ですね。
髙口:調査結果を見ると、ベビースターラーメンは非常に高い認知度を誇っています。しかも総じてポジティブなイメージとともに認知されている。愛されるブランドに必要な要素が揃っているように見えますが、「スナック菓子を買おうかな」と思った人が真っ先にベビースターラーメンを思い浮かべるかというと、そうではありません。いざ買おうとすると「ポテチの壁」がどんと立ちはだかるんです。
スナック菓子という市場で戦うスタイルがベビースターラーメンにとっての“王道”ですが、その王道が渋滞してしまっている状態でした。信号の前に大きなダンプカーが停まっている状態をイメージするとわかりやすいかもしれません。消費者はベビースターラーメンが嫌いなわけではなく、ポテチの壁によってその姿が見えていないだけだと。そこで、カテゴリーエントリーポイントを増やす作戦に出ました。ポテチの壁でベビースターラーメンが消費者から見えなくなっているのなら、見えやすい道を新たにつくれば良いわけです。
料理に使えるスナック路線に勝機
髙口:新しいカテゴリーエントリーポイントとして「料理に使えるスナック菓子」を考えました。ポテチはサンドイッチの横に添えられていることはあるものの、「料理に使える」というイメージはそこまで強くありません。一方、ベビースターラーメンはスナック菓子と食材の両方に足を突っ込んでいる感じがあります。
髙口:実際調べてみたところ、スナック菓子市場でのシェアはポテチのほうが高いものの、レシピサイトに掲載されているレシピの数ではベビースターラーメンが上回っていたのです。もんじゃ焼き屋さんやお好み焼き屋さんなどでも、トッピングとしてベビースターラーメンが用意されていますよね。このことから「ベビースターラーメンは料理に使える食材として受け入れられている」と考えました。さっそく2018年から「料理に使える」というブランドコミュニケーションを実施したところ、過去5年間で下降傾向に陥っていた需要がV字復活し、一つの成功モデルとなりました。
鈴木:私が以前在籍していた日本コカ・コーラでも、様々な“ウィズ・コーク”のオケージョンを考えていました。「喉が乾いた時」という王道のオケージョンだけでなく、「食事の時」「カウチに座って映画を観ている時」「お酒を飲んでいる時」など、様々なオケージョンが考えられます。オケージョンの広がりとともに売り場も拡張し、ドリンクコーナーだけでなくサンドイッチの売り場にコーラが置かれるなど、結果としてクロスマーチャンダイジングやアップセルを実現できるようになりました。