※本記事は、2024年11月刊行の『MarkeZine』(雑誌)107号に掲載したものです
【特集】進むAI活用、その影響とは?
─ 生成AIがクリエイティブとデータをつなぎ、顧客体験を変えていく。アドビに聞くビジョンと現在地(本記事)
─ 最初から完璧を目指さない ハイテクなイメージをあえて遠ざけた東急のAIコンシェルジュ
─ 組織の生成AI活用を最大化するためには?リクルートの生成AIプロジェクトが実践する4つの施策
─ 生成AI活用に驚きがなくなった今、企業が意識すべきこと
AIが実現する「インテントベース」の体験
──今、生成AIの登場でマーケティングにどういった変化が起きているのでしょうか? 御社が考える「AI時代のマーケティング」についてお聞かせください。
阿部:生成AIに限らず、新しいテクノロジーの登場によって最初に変化するのは消費者です。いつの時代も企業はそれに応える形で、顧客体験をバージョンアップさせてきました。
生成AI時代において、たとえば漠然とした欲求をChatGPTに入れて、やるべきことを整理してもらうなど、自分の文脈に沿った提案をますます求めるようになっています。今後は日常のあらゆる場面で生成AIが使われるようになり、ユーザーのやりたいことを理解して助けてくれるエージェントのような存在になると考えられます。それが当たり前になった世界では、企業も同等の体験を提供することが求められるでしょう。そこで、アドビはこれからの顧客体験には「インテントベースエクスペリエンス」が基本になると考えています。インテントとは目的や意図という意味です。つまり、企業はユーザーの意図や求めるものを先回りして提供する必要があるのです。
アドビは長年、企業のマーケティングにおいては、大規模なパーソナライゼーションによってインテントベースの顧客体験を提供することが重要だと提言し続けてきました。生成AIの登場を起点に、こうした顧客体験の実現が現実味を帯びてきたと言えます。
というのも、これまでも多くの企業が実践してきた「パーソナライゼーション」は、いくつかのセグメントに対して、バナーのデザインやメールの文面を少しずつ変えて配信するといったレベルにとどまっており、限定的なものでした。
これを、生成AIの力を頼ることによって、「スーパーハイパーパーソナライゼーション」へと進化させることができるのです。数百万のセグメントに対して、それぞれの文脈に合わせたチャネルやコンテンツを通じて、パーソナライズされた体験を提供することも可能になります。アドビではこういった世界観を目指してソリューションを提供しています。
──御社は生成AIをどのように活用して、こうした顧客体験を実現させるのでしょうか?
阿部:顧客体験を左右するものがコンテンツです。大量のセグメントに対してコンテンツを出し分けるためには、当然大量のクリエイティブを作成する必要があります。手作業ではとても制作しきれないので、生成AIによって、そのプロセスを自動化・効率化する必要があります。
そこでアドビでは、「クリエイティビティの民主化」と「クリエイティビティのDX」という2つの軸で生成AIを組み込むことで、マーケティングプロセスの変革を目指しています。
クリエイティブ制作にAIを活用する際、多くの企業がつまずくものが「タスクの分解」です。プロセスのどの部分をAIに任せ、どの部分を人間が担うべきか分ける作業が難しいのです。
生成AIのプロンプトさえ書けば、優れたクリエイティブができるわけではありません。ユーザーに響くクリエイティブを実現するためには、専門家であるデザイナーの思考が不可欠です。また、企業やブランドのガイドラインに則る必要もあります。さらに、生成されたクリエイティブが適切にお客様の企業の文脈に沿ったものになっているか、レビューすることも重要です。
アドビはこうしたクリエイティブ制作のプロセスの必要な部分に、あらかじめ生成AIを組み込み、ツールを提供しています。企業はツールを使うだけで、AIとのタスク分担を意識することなくクリエイティブ制作を効率化できます。これが「クリエイティビティの民主化」です。
もう1つの軸である「クリエイティビティのDX」は、制作したクリエイティブを数値的なデータに基づいて科学する考え方です。
従来、クリエイティブを制作した後の分析はA/Bテスト程度にとどまっていました。しかし、生成AIを活用することで、企業が扱うすべてのコンテンツを構造化し「このコンテンツにはこういう要素があるから、これくらいのパフォーマンスが出た」といった具合に分析できます。
コンテンツの分析・理解が進むことで、セグメントごとに最適なクリエイティブを提供できるというわけです。