LVT向上を目指す ポーラ流コミュニケーション設計
MarkeZine編集部(以下、MZ):まず、お二人のご経歴と現在の業務領域についてお教えください。
多賀:2018年に新卒でポーラに入社以来、約6年間EC事業部に所属しています。DM・メルマガ・LINEなどのコミュニケーション媒体の制作業務や、Web広告周りやバナー、LPの制作などの担当経験があります。現在は、顧客シナリオ全体のプランニングを担当しています。
LTVの向上に向けて初期育成シナリオの設計や、そこから派生する顧客コミュニケーション媒体の制作と運用のディレクションを担当しています。
中嶋:私は元々、2009年4月に印刷会社に入社して以来、10年ほど法人営業を行っていました。企画やマーケティング領域のスキルアップをしていきたいと考えていた中、全日本DM大賞(日本郵便主催)を通じてフュージョンのことを知り、2022年3月にジョインしました。
現在は、アカウントプランナーとしてお客様とコミュニケーションを密に取らせていただく立場です。課題のヒアリングに始まり、クリエイティブチームをはじめ、社内の専門部署と協働して、プロモーション企画提案・制作までを一貫してサポートさせていただき、お客様の課題解決の支援を行っています。
「F2転換率」と「使用方法の理解不足」が課題
MZ:今回ポーラは、シワ改善薬用化粧品「リンクルショット メディカル セラム」と美白美容液「ホワイトショット SXS」の購入者を対象にしたDM施策で全日本DM大賞の銅賞を受賞しました。実施以前に抱えていた課題感を含め、施策の背景を教えてください。
多賀:リンクルショットは初回の購入品として人気が高い一方、リピート率の鈍化が課題でした。そういった課題からF2転換率を引き上げたかったことと、同時に2回目購入時点でのクロスセルの改善も見据え、今回のDM施策に至りました。
実は、以前から圧着DM(はがきタイプ)をお客様の初回購入からの期間に関わらず、3ヵ月に一度、一括で送っていました。しかし、初回購入から一定の期間を超えると、レスポンス率が大幅に鈍化していたことが課題の一つでした。
F2転換率改善に加えて、「正しい使用方法・製品理解」を促したいという想いもありました。F2転換率の低さの要因を探るために、顧客分析や百貨店の美容部員の方々にヒアリングしてみると、本来推奨していた塗り方と違うなど、正しい使用方法で使えていないお客様が多いことや、同商品に配合されている、当社独自のシワ改善有効成分に対しての理解が進んでいないことが判明しました。
これでは、本来の効果が発揮されない上に、重要な有効成分の存在についてもきちんと訴求できません。
これらの課題を一度に解決できるクリエイティブ設計を考えていた時に、全日本DM大賞でフュージョン様が賞を取られていたのを見て、当社から問い合わせてご依頼しました。
中嶋:フュージョンでは、ダイレクトレスポンスに必要となる四つのファクターとその比重を提唱しています。それは、“ターゲットが5割、タイミングが2割、オファーが2割、クリエイティブが1割”というものです。ポーラ様では、元々「ターゲット」「タイミング」を「F1の方々をいかにF2に引き上げるか」「引き上がるタイミングは、3ヵ月目」と、細かく分析していました。そのため、我々の役割はクリエイティブのサポートを行うことでした。
※リンクルショット メディカル セラム 販売名:ポーラ リンクルショット メディカル セラム
※ホワイトショット SXS 販売名:WSエッセンスSXS
※美白:メラニンの生成を抑え、シミ・ソバカスを防ぐ
体験や情緒価値の訴求に軸足を置いた顧客目線のデザイン設計
MZ:今回のクリエイティブではどのような部分を意識されましたか。
中嶋:我々は、本質的にDMは広告ではなくて企業から顧客への手紙だと思っています。それをクリエイティブで表現することに重点を置いて考えました。
その観点から見た時に、ポーラ様の従来の圧着DMは、プロモーション色が強い印象でした。そこで、改めて体験・情緒価値の訴求に軸足を置き、顧客とのコミュニケーションを考えていきました。
中嶋:最初、当社から出したラフは、ポーラ様の色をほぼ無くし、お客様がどう受け取るかのみを考えたクリエイティブのものでした。その後、ポーラ様の世界観や想いとすり合わせ、融合させながら試行錯誤を行っていき、今回のDMができあがりました。
多賀:今回のDMは、手書き風な親しみあるデザインが特徴的です。ポーラ公式オンラインストアをご利用のお客様にはこれまでこのようなデザインのDMを出していなかったのですが、フュージョン様からも「高価格帯であることも踏まえると、親しみやすいデザインを試してみてもいいのではないか」と、お客様目線に立って提案をいただいたことで、人肌感がある寄り添ったデザインで進めることができました。
F2転換率は2倍に 肌の透明感を表現した透けて見えるDM
MZ:今回の施策を「直感刺激DM」と銘打っていますが、どのような意図、工夫があったのでしょうか。
中嶋:今回のDMでは、商品を買ったことがある方がターゲットということもあり、「私に届いた」と直感的に伝わるデザインを意識しました。
封筒に半透明の紙であるトレーシングペーパーを使用することで、商品の写真が透けて見えるような設計になっており、「透き通る肌」を目指すという商品の特徴や訴求したいポイントも視覚・体感的に伝えられるデザインになりました。また、透けて見えることにより開けたくなる気持ちを促す設計にもなっています。
MZ:封筒の中身にはどのような工夫を施しましたか?
中嶋:封筒の中には二つ折りのカードを入れて、「リンクルショット」「ホワイトショット」を並べて紹介するデザインにしています。
さらに、それぞれの使用方法を解説動画のQRコードを付けて紹介して長時間使用し続ける大切さや日々のケアのコツをご紹介したり、研究員のコメントを示したりすることでリピートにつなげる設計になっています。また、DM限定のオファーであるキットを多賀さんが企画されていたので、それを購入できる特別感も持たせています。
MZ:現在のDMに変更してから具体的にはどのような成果が表れましたか。
多賀:2022年8月にこのDMを開始した当初は、サンプルを付けたものとのABテストを行いました。しかしサンプル無しの方が、反応が良いことがわかり、2、3ヵ月目からはDMのみに絞って送付を行うようにしました。その結果、DMを変える前後で、F2転換率は約2倍になりました。軌道に乗ってからも引き続きF2転換率は改善を続けており、効果を強く実感しています。
加えて、併売率も約3倍に伸長しました。今回のように二つの商品を横並びで紹介する見せ方には、併売を促す効果を感じています。
EC事業者にとってDMは“接客の場”
MZ:現在のDMに変えてから、ユーザーからの反応は何かありましたか?
多賀:このDMに変えて以降、お客様からわざわざお電話でお問い合わせをいただくことが増えました。このようにお客様の能動的なアクションを引き出すことができるようになったのは大きな成果だと感じています。
また、効果の継続性についても成果を感じました。圧着DMの時には、届いた直後から2日後くらいまでに購買の波が来て、そこから反応率が急落するといった傾向でした。しかし今回のDMでは、最初の購買の波は圧着DMほど大きくなかったものの、それが緩やかに続くといった購買傾向が見られました。
これは、クリエイティブの質の高さからDMを保管してくれる割合が上昇したことを示していると考えています。
MZ:これまでのお話を踏まえて「DM」ならではの良さ・強みを、どこに感じられましたか。
多賀:まず、反応率の面では、メルマガや広告と比較して高い傾向にあります。その分、担当者としてはコストが気になるところですが、費用対効果を出すと、他の媒体と同等か場合によっては安い点も印象的でした。紙だからこそ得られるインパクトの強さは、今後もなくならないだろうと感じています。
また、ECという直接人の手を介さない事業部にとっては、DMは“接客の場”だと思っています。リアル店舗での店員と顧客とのコミュニケーションに代わる存在に成り得る点には、非常に魅力を感じています。
多賀:加えて、商品の正しい使用方法を伝える役割にも強みを感じます。元々ECサイト上に説明を載せていましたが、サイトやメルマガだけだと見過ごされてしまいやすい情報を、紙を使うことで目に留めてもらいやすくなります。このようにして、正しい使用方法が伝わり、商品の魅力をご体感いただいたことからさらにリピートにつながっていく流れの起点になったことには、紙のDMの力を感じました。
中嶋:開封率が他のチャネルと比べて高いというのはDMの特徴の一つですね。70%以上の閲読率があるというデータも出ています(日本ダイレクトメール協会調査)。お客様に温かみや商品の魅力を確実に届けることができ、行動を喚起する力があるというのは、DMの良いところだと思います。
DMを活用してF2転換率のさらなる向上とF3転換率改善を目指す
MZ:DM施策の活用について、今後の展望を教えてください。
多賀:二つあります。一つ目はこれまで通り、初回購入した方との重要なタッチポイントとしてDMを継続し、F2転換率を上げていくことです。
会員登録タイミングのチェック項目で「DMを受け取らない」と回答する率が時代とともに増加しています。当社でできることは、DMを受け取るメリットをお客様にお伝えし、理解いただくこと、受け取る選択をしていただけたお客様のレスポンスを上げるために、DMのクオリティを上げることです。今はまさにクオリティの向上に注力している最中で、レスポンス率は現在の200%から400%まで上げることを目標としています。
二つ目は、LTV向上に向けた重要なタッチポイントでDMを活用し、離脱を抑えることです。お客様のロイヤルティが上がるような仕掛けを用意していきたいと思っています。その際にもDMは有効に働くと考えています。
中嶋:フュージョンはCRM領域で、企業様のマーケティング活動の良き伴走者であることを重要視しています。そのためにも、部分的な一つの課題にフォーカスする前に全体を捉え、真の目的のためにバランスを取りながら解決していきたいと思っています。ポーラ様への支援においても、ミッションはあくまでお客様のLTVを最大化することであり、その手段としてDMは今後も非常に有効だと考えています。
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スマートDMは、デジタルと紙のDM(ダイレクトメール)を掛け合わせた手法のこと。デジタルとリアルのいいとこどりができるから、五感を揺さぶる1枚が、届けたい人のみにムダなく届く。これからの時代を想う、効率的な新たな手法です。