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MarkeZine Day 2025 Retail

実践企業に聞く!経済価値と社会的価値の両立

なぜパタゴニアの発信と行動にはブレがないのか?レスポンシブル・カンパニーの哲学と仕組み

ショッパー廃止、エコバッグ持参率90%超の背景

菅原:直営店では2020年、お客様が製品をお買い上げされた際に提供する、お持ち帰り用の袋(ショッパー)を廃止していますね。また、同時に各家庭で使用されずに眠っているエコバッグ(他社製も含む)を回収し、必要とされる方に渡すという循環・共有する取り組み「エコバッグ・シェアリング」を開始されています。

 こうした取り組みは社会価値が高い一方で、ショッパーは広告的な役割もありますし、お客様の利便性を考えてもなかなか難しい選択だったのではないでしょうか。

パタゴニア 鎌倉にも「エコバッグ・シェアリング」の案内がある
パタゴニア 鎌倉にも「エコバッグ・シェアリング」の案内があった

篠:「エコバッグ・シェアリング」の取り組み自体は2020年から始めましたが、そのずっと前からトライ&エラーを繰り返してきました。というのも、私たちのバリューの1つに「環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える」というものがあります。

 ショッパーについても、1989年に日本で最初の店舗をオープンした時にからリサイクルペーパーを使用し、輸入時に製品を保護するための梱包プラスチック袋をリサイクルしたショッパー、他社のものを含めたショッパーの回収・共有を行ったりしていました。

 その後2020年4月に国によるレジ袋有料化の制度が導入された際は、「無料でエコバッグを配るお店が増え、結果的に家庭で使われずにためられていくエコバッグが増えるのではないか」と考え、自社のショッパーを廃止した上で、お客様から不要なエコバックを回収し、ショッパーを必要とされるお客様には、パタゴニアの店舗をハブにお客様同士がエコバッグをシェアする「エコバッグ・シェアリング」をスタートしたのです。

 5年ほど前の時点で、既にパタゴニアに来店されるお客様のエコバッグの持参率は80%以上でした。現在、店舗によって差はあるものの、ショッパー提供が不要なお客様の割合は98%ほどです。アパレルでこの数字は他ではあまりないのではないでしょうか。

 パタゴニア店舗のスタッフのメンバー一人ひとりが接客の際にエコバッグ持参の働きかけをしてきた実績の上でショッパーの廃止も実現できたのであって、前提のストーリーがない中で行ったとしたら、おそらく受け入れられなかっただろうと思います。

サステナビリティ推進はプラスオンにすると負担になる

篠:店舗から生まれた取り組みとしては、他にも店舗由来のゴミをゼロに近づけようとする「ゼロ・ウェイスト」はずっと前から行っていました。

 ゴミの出所は一体どこなのか。社内で分析したところ、その一つに倉庫から納品された段ボール開封時に剥がされたガムテープがゴミになりやすいという結果が出ました。この現場の課題を解決すべく、私たちブランドレスポンシビリティチームが物流部門に分析結果を共有し、剥がさなくてもリサイクルできるガムテープに変更しました。

菅原:店舗スタッフの方からの提案がきっかけで実現したとは、やはり哲学が一人ひとりのメンバーまで浸透しているからなのでしょうね。

篠:組織の体制としても、各店舗にアクティビズム担当やサステナビリティ担当のスタッフを設けています。担当者を軸に日々の取り組みの中で改善できる点を見つけたり、改善のための取り組みを実施し、他店舗に共有して広げたりしています。2017年頃からは各店舗のサステナビリティの取り組み状況がわかるチェックリストを作成し、結果を毎年レビューする機会を持っています。

菅原:店舗からの具体的なアクション案は、パタゴニアさんの文化やミッションが反映された仕組み作りによって成立しているのですね。

 一方で自社の事業活動がもたらすマイナスの影響を可視化し向き合うことは、なかなか勇気がいると感じる企業も少なくないのではないかと思います。

篠:サステナビリティの推進を追加の業務と捉えている企業様もいるかもしれません。しかし、私たちは追加ではなく、サステナビリティをいかにオペレーションに統合していけるかという視点で見ています。先ほどのガムテープの話でも、従来通り、ガムテープがゴミとなって増えれば増えるほど処理コストはかかりますが、そもそも段ボールのリサイクルのためにはがしたり、ゴミとして処理する必要がないガムテープを使えば、結果的に作業は軽減できます。このように、オペレーションに組み入れることによってコストや作業の最小化、効率化も期待できるでしょう。

菅原:サステナビリティはプラスオンではなく、あくまで統合していくものということですね。今回の連載では様々な方にお話をうかがっているのですが、皆さん、経済価値と社会価値は別物ではなく地続きだとおっしゃっていました。別物として考えるからジレンマが生まれる。1つのものと捉えると、負担にはならないのですね。

篠:そうですね、ただ忘れてはいけないのは、これらの取り組みは社内だけでできるわけではないことです。同じような視点を持って協力してくださる取引先の皆様がいるからこそ成り立っていると感じます。

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的を射ること自体を目的にしない

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この記事の著者

和泉 ゆかり(イズミ ユカリ)

 IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/04/24 15:00 https://markezine.jp/article/detail/43661

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