マーケターの成長性は「戦略的思考」に左右される
木村:僕がユニリーバ・ジャパンでLUX(ラックス)のマーケティングを担当していた時、当時上司として色んなことを教えてくださったのが中川さんで。今の自分があるのは本当に中川さんのおかげなんです。後編では昔話も含めながら、中川さんのマーケティングにおける視座を改めて学ばせていただきたいと思っています。
さっそく元部下として最初の質問なのですが、これまで何百人ものマーケターなり部下なりを見てきて、ずばり成長していくマーケターってどんなマーケターだと思われますか?
中川:色々な要素があると思いますが、やはり一番には「戦略的思考ができる人」だと思います。戦略的思考が強い人と言ってしまうと元も子もない気がするので、戦略的思考を身に着けたいと思っている人、と言うほうがよいでしょうか。
よく「右脳派」「左脳派」みたいな感じで、マーケターを二分して語ることがありますが、僕の中では、右脳も左脳もありません。広告を作る前の工程として、基本的な戦略構築の部分を愚直に丁寧に行えるか否か――ここの戦略をしっかり練られる人は、マーケターとして成長していく傾向があるように思います。
たしかに、センス勝負で勝てることもあると思うんです。ただ、センスで勝負して勝てる人は、言ってしまえばそれで勝ててしまうので、それ以上は伸びにくいのかなと。
木村:Howではなく、より上流の戦略部分が重要であるということには深く同意です。恐らく僕も中川さんも同じ考えだと思うのですが、僕は、優れたマーケターとは戦略を描けるか否かではなく、戦略構築の工程をやり切れるか否かに分かれ目があると考えているのですが、中川さんから見るといかがですか?
中川:そうですね。戦略の部分を愚直にやり続けられる人は少ないかもしれないですね。
自分がやってきたマーケティングの良し悪しは置いておいて、僕は自分がマーケターとしての特殊能力を持っているとはまったく思わないんです。普通のことをちゃんとやっているだけですから。でも、普通のことをやり続けるのは、たしかにけっこう大変だとも思います。
面倒くさいんですよね、(広告コミュニケーションを企画する度に)毎回考えなければならないことが増えますし、毎回考えたとして結果はそんなに変わらないかもしれないですし。なんですが、ここをやり続けることで、コミュニケーションの効率が大きく変わってくることも事実です。
木村:この戦略構築というのは、要はWHO/WHATやSTP分析などを指していると思いますが、僕はそこの重要性に気が付くまでに時間がかかったタイプです。セグメンテーション(WHO)が甘くて、中川さんによく指摘されていましたから。当時よく言われていたのが「とにかく(基本を)やってみなさい」みたいなことだったと思います。
中川:よく質問していた記憶はありますね。提出されたブリーフ(コンセプトの設計書)が何だかパッとしない時に「これ(このセグメント)は、どういう人なの?」と。
先のほうで面倒だと言いましたが、WHO/WHATが明確になっている状態でことを進めるほうが絶対にラクなんです。人間はすべからくラクなほうに流れやすい生き物ですから、「戦略をしっかり設計したほうがラクだ」と実感できればいいわけですよね。なので、「1回だとわからないから、騙されたと思って(基本のフレームワークを)3回やってみてください」ということはよく言っていたと思います。