本記事は有料記事ですが、2023年12月20日まで無料でご覧いただけます。
「経済価値と社会価値の両立」を実現する5名
「経済価値と社会価値の両立」というテーマで、実践者5名の方々と対談をさせていただきました。印象的だった内容を簡単に振り返りながら、このインタビューを通してわかった「両立で成果を収めている実践者」の共通点と、そこから浮かび上がる現代マーケティングの盲点を突いた戦略について、本連載のしめくくりとして本稿にまとめます。
連載の初回に登場した楽天の塩沢さんは地域創生事業 共創事業推進部をわずか3人で始め、全国各地を飛び回りながら、現場に上長を連れていき熱量を伝播させたり、各地の楽天店舗を巻き込んだりしながら着実に成果を出し、自社のみならず、地域、楽天店舗、次世代と多方面における価値創出に尽力されています。
2回目に登場した博報堂ケトルの村山さんは、クライアントの何気ない一言に共感し、著名なKOLを巻き込みながら、生理についてオープンに語っていく「#NoBagForMe」プロジェクトを成功に導き、SNS上での生理に関する会話量を2倍にし、商品の売上もブランドエンゲージメントも向上させました。
3回目に登場したTENGAの西野さんは、デリケートなテーマである「性」と真摯に向き合い、商材の価値だけではなく、女性が性的欲求を持つこと自体を肯定するメッセージングに注力し、深いレイヤーでお客様とつながってこられました。SNS上で一般の方がTENGAの理念を代弁するエピソードはとても印象的でした。
4回目のShape the Dreamの白木さんは、競技以外では自信を失くしがちな学生アスリートに対して、彼らが培ってきた力の汎用性に気づいてもらいたいという想いでNPOを立ち上げました。同時に、その想いに共感し、NPOをさらに飛躍させてくれる、現役・元を含むトップアスリートの参加メンバーたちを讃えました。
最終回を飾ったパタゴニアの篠さんは、「エコバッグ・シェアリング」や「ゼロ・ウェイスト」、「パタゴニア プロビジョンズ」などの実際の取り組みを例に挙げ、自分たちはパーフェクトではないからこそ、仲間と一緒にコレクティブに取り組んでいくことの重要性を教えてくださいました。
実践者の共通点1:三層構造で捉える
さて、大きな成果を出されている実践者の方々に実例を交えてお話を伺ってきましたが、いくつか非常に特徴的な共通点を見出すことができます。ひとつはターゲットとの関係構築を「三層構造」※で捉えている点です。もうひとつはその過程で、自社の経済価値を社会価値に「昇華」させているところです。
※出典:『脱広告・超PR―広告を信じなくなった消費者を動かす「連鎖型」IMC』(山田まさる、2009年、ダイヤモンド社)
私がコンサルティングの現場でクライアントと議論する際に実際に使用している図を用いて、ひとつずつ、見ていきましょう。
向かって左側が通常の事業活動を示す二層構造です。二層構造では、顧客に限らず、求職者、仕入先、投資家等、あらゆるターゲットに対して、自社にとって望ましい行動をとってもらうように働きかけを行います。「情報の発信者と受信者」や、「売り手と買い手」といった明確な目的のある関係性で、ターゲットにとっての「メリット」を、メディアなどを通じて提案し、YESかNOかの判断を求めます。これを説得の構造と呼びます。
対して、向かって右側の三層構造では、二層構造に比べ、「売り手と買い手とメディア」のような役割はとても曖昧です。ブランドは「私たちは、こう思うんですけど、皆さんはどう思いますか?」という投げかけを行い、私はこう思う、俺はこうだ、というように様々な意見を引き出したり、そのテーマはあの人が詳しいよ、こことつながったらおもしろいんじゃない、といった具合に他の関係性が構築されたりします。
そして、かつて顧客としてターゲットしていた人たちが、一緒に地域活性の担い手になったり、ブランドの代弁者になったり、環境問題の啓発者になったりします。こうして、様々な視点を得て、起案者のブランド自体でさえ想定していなかったような関係性に発展していきます。これを、説得の構造に対して、止揚の構造と呼びます。共創の構造じゃないの? と思われた人もいるかも知れません。その理由は後述します。