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実践企業に聞く!経済価値と社会的価値の両立

時間が必要だし数値化が難しい、それでも「三層構造のマーケティング戦略」が必要な理由

止揚の構造は超高速化するマーケティングの逆張り

 実践者はなぜ、わざわざ二層構造に比べ、目的が曖昧で、手間も時間もかかる三層構造で関係性を構築していくのでしょうか? それは、この戦略が投資回収のスパンが極端に高速化している現代マーケティングの「逆張り」を行く戦略になり得るからです。

 電通の「2022年 日本の広告費」によると、インターネットに投じられた広告費は2019年からわずか3年で1兆円増加の3兆円を超え、全広告費の43%を占めるまでに成長しました。金額ベースで見れば、マーケティング活動の主流と言って差し支えないでしょう。また、同じく総務省のデータによると、私たちの身の回りを流通する情報量は2022年11月時点で前年同月比23.7%増となっています。

『総務省 我が国の移動通信トラヒックの現状』(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/nd242240.html)内「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計結果(2022年11月分)」に著者がテキスト(赤字)を付記
『総務省 我が国の移動通信トラヒックの現状』内、「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計結果(2022年11月分)」に著者がテキスト(赤字)を付記

 私自身が「情報流通量」の概念を初めて知ったのは、電通の秋山隆平さんが2007年に出版された『情報大爆発』という書籍だったと記憶しているのですが、当時でさえ、「ここ10年で情報流通量は410倍になった」と指摘されています。当時とは算出方法が異なっているものの、グラフを見ても明らかなとおり、書籍出版から15年以上経った現在、もはや●年前の●倍という比較自体、あまり意味をなさないくらい、天文学的な増加を記録し続けています。

 このおびただしい情報量の中で、企業はターゲットを説得するために、3兆円を投じていることになります。やや大げさに言うなら、ものすごいスピード感の中で、気まぐれなユーザーに向けて、できるだけ多くのインプレッションを、できるだけ安価で運用し、競合を含む壮絶な市場の中で、短期間で成果が出やすい施策でターゲットを奪い合い、0.1%の指標改善に腐心している現代マーケティングの実像が浮かび上がります。

 インターネット広告が主流となった現代マーケティングにおいて、自社とターゲットという二層構造を選択している限り、この消耗戦を避ける術はありません。実践者は従来の「ターゲットを説得する」という二層構造の必要性は理解しつつも、そこに付随してくる消耗戦を回避するために、三層構造による関係性構築に乗り出しているように見受けられます。彼らは、超高速化する現代マーケティングの過酷さを認識したうえで、逆張りすることによって成果を上げていると言えるのです。

共通点2:自社の経済価値を社会価値に昇華する

 もうひとつの共通点、自社の経済価値を社会価値に昇華させている点について見てみましょう。先に少し触れましたが、三層構造では働きかけではなく、「私たちはこう思うんですけど、皆さんはどう思いますか?」という投げかけを行います。

 三層構造は、そもそも説得を目的とした二層構造とは異なり、ターゲットに対してYES/NOを迫らないので、ポジネガ両方の多様な意見が寄せられます。楽天の地方創生であれば、ECの力を使ってこんなことが実現できると思うんですけど、どう思いますか? という投げかけに対して、うちの地域では●●に困っている、楽天の●●を使ってこんなことできない? という具合です。

 そして、ここが重要なポイントなのですが、実践者は、この寄せられた意見に丁寧に耳を傾け、自社価値を修正することを厭わないのです。自社単独で作り出した提供価値は、たくさんの方々に揉まれることによって汎用化され、たくさんの方が納得できる、より高次な価値に昇華していくことになります。たくさんの方が納得できる価値とは、突き詰めて言えば、社会的価値に他なりません。

 ネットで物を売る技術が地方創生に活かされる価値に、アウトドア用品は環境問題を啓発する価値に、セルフプレジャーアイテムは性にまつわる様々な葛藤を肯定する価値になるのです。現代マーケティングの盲点を突いた「止揚マーケティング」は、止揚(=アウフヘーベン)の元々の語義である「両者を肯定し、包含し、統合し、超越することによって、より高い次元のものへと昇華していくこと」(※)のごとく、自社の想定を超える化学反応を実現します。事前に到達したいゴールがある程度、明確な「共創マーケティング」との違いはここにあるのです。

※引用:『使える弁証法』(田坂広志、2005年12月、東洋経済新報社)

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実務現場に登場する「とはいえ」という分岐サイン

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この記事の著者

菅原 賢一(スガワラ ケンイチ)

 株式会社パブリックグッド 代表取締役
1975年岩手県生まれ。プラップジャパン、インテグレートを経て、2013年にソーシャルマーケティングを手掛ける株式会社パブリックグッド設立。日本PR協会主催PRアワードグランプリ「ソーシャルグッド部門」にて2020年ブロンズ、2021年シルバー受賞。
2023年、事業活動...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2023/12/06 09:30 https://markezine.jp/article/detail/44171

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