ブランドはプロモーションだけでは創られない
木村:ユニリーバ時代のロンドンで、横田さんには本当にお世話になりました。「マーケティングはお金を使い、ファイナンスはお金を守る」などと揶揄されることがありますが、横田さんは当時からマーケティングにとても理解のある方だと思っており、柔軟な判断をされる姿が印象に残っています。今日は、CFOの視点からブランディングとマーケティングについてお話をお聞きしたくお訪ねしました。
資生堂さんは、いずれもブランドでも、プロダクトから売り場作り、広告など隅から隅までブランディングを徹底されています。横田さんは現在CFOとして、マーケティングへの投資判断にどのように関わられているのでしょうか?
横田:資生堂全体におけるリソースの最適な配分を、ブランドの優先度も含めて考えていくのが私の役割です。対マーケティングでは、たとえば、限られた予算をどう効率的にマーケティング活動にアロケーションしていくか、プロモーションとブランドビルディングへの投資比率をどうするか、マーケティング予算がもっと必要ならばそれ以外の費用をいかにセービングするかなど、全体的な方向性を考えていきます。その先にある各ブランドでのアロケーションやトラッキングは、各ブランドチームで行っている形ですね。
木村:企業活動において、ブランディングは特に投資判断が難しい領域であると思うのですが、横田さんはファイナンスの観点から企業活動におけるマーケティング、ブランディングへの投資をどのように考えられていますか?
横田:おっしゃる通り、マーケティングへの投資判断は非常に難しいです。P&Lのラインでファイナンスを見ていく際、一番難しいのがマーケティングの領域かもしれません。
たとえば、マーケティングROIの良し悪しを判断する時、何を基準にするとよいでしょうか? プロモーションに予算を大きくかけるほうがリターンはすぐに返ってきますから、単純に数字(売上)だけを見るのであれば、売上向上を目指してプローションに予算を寄せることになると思います。ですが、そのプロモーション施策により、ブランドがどれだけ育つかはケースバイケースです。プロモーション施策によっては、短期的な効果になるケースもあると考えられます。企業としてのゴールを最終的に達成するために、アロケーションのバランスを見つけていくことが、我々の仕事だと思っています。
木村:「企業としてのゴール」というところが鍵になりそうです。私はブランディングは経営と表裏一体であると考えており、マーケティングの上流戦略、4Pや6Pの部分が結局は重要になると考えています。
横田:そうですね。ブランドはプロモーションだけでは作れません。ブランド価値の創造にはイノベーションやCXなどすべてが複雑に絡み合ってきます。たとえば、マーケティング活動での投資判断で特に難しいのが「アンバサダーの起用」なのですが、広告に起用するアンバサダーのアウェアネスと好感度が良いからと言って、それがそのままブランドイメージに繋がるかというとそうではありませんし、購買が上がるか否かもわかりません。
何か一つをやれば良いわけではなく、あらゆる角度からブランディングを行って、初めてブランド・エクイティというものが徐々にできていくのだろうと。となると、マーケティングでは、4Pなり6Pなりを起点に全体を作っていくことになるのではないでしょうか。