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【100号特集】24社に聞く、経営構想におけるマーケティング

「良いコンテンツを作れば自然と広がる仕組み」を目指して──「ABEMA」の経営とマーケティング

“ひとりの顧客”を大事に、ユーザー起点のマーケティング

──「良いコンテンツが自然にユーザーに届く」仕組み作りのために、近年特に力を入れてきたマーケティング活動について教えてください。

 重要なのは、変化していくユーザーのトレンドを理解して、タッチポイント上にあるメディアを使いこなすことです。ユーザーがライフスタイルの中で接触する機会の多いメディア、デバイス、時間帯を考慮しながら、最適なコミュニケーションを行い、その導線上にABEMAがあるようにしたいのです。

 たとえば、ABEMAは若年層にも多く視聴いただいていますが、彼らにコンテンツを届けるためには、ティーンに対する我々の価値観を疑うことも必要です。そこで、中高生への「N=1」インタビューなどの定性調査を行う他、番組放送中のソーシャルリスニングによって、どのシーンがどのように語られ、受け止められているかを細かくチェックしています。リアルなティーンの声と環境、価値観を把握し、鮮度を保った状態で編集や番組編成、情報発信に反映しています。

 また、公式SNSも、メディアごとの特徴を考慮してインハウスで運用しています。たとえば、Xは瞬発力が高く、番組への関与度が低いユーザーに対しての情報流通に長けています。一方、Instagramは出演者とファンの結び付きが強いです。こういった傾向を踏まえて、施策に活かしています。

マーケティングが染みわたる全社組織を目指す

──社内に「マーケティング思考」を浸透させることでの事業貢献についてもうかがえますか。

 できるだけ言語化してフレームワークを作り、それをメンバーに使ってみてもらうことを推進しています。一旦フレームワーク化すると「自分でやってみる」ことが容易になります。極論、先人が1年かけて成したことを、1ヵ月でできるようになるかもしれません。ただ、フレームワークを一度作ったらそれで終わりではありません。フレームワークを用いつつも、本人が持つクリエイティビティが発揮されて、新たに生まれるものもあります。その成功・失敗で学んだことを再びフレームワークに落とす。これが重要です。サイクルを回していくことで、組織ケイパビリティが強化されていくと考えています。

 また、我々の部門は横軸組織なので、事業ごとに様々な部門と関わります。お互いに業務範囲を決めすぎないで浸食していく文化なので、マーケティング思想が組織に染みわたるような仕事の仕方を意識していますね。お互いの業務を理解し、共通言語になっている状態が理想です。

 今の組織でも十分に素地はできていますが、理想と比べると60〜70%の段階。マーケティング力が会社や事業の確固たる競争優位性になるように、今後も注力していきたいと思っています。

──マーケティング人材・組織の育成や強化の取り組みについてはいかがでしょうか?

 マーケティング部門の中でも様々な職能があります。多様な職を経験することで、マーケティング全体をプランニングできる人材を育成できるように、流動性を意識した業務設計にしています。

 また、マーケティング組織全体としては「日本で一番AIを使っているマーケティング組織」を目指して、AIの業務活用に注力しています。生成AIでクリエイティブを作成したり、データの分析・処理にAIを取り入れたりといった形で、これまで当たり前にやっていた業務設計を見直し、仕事の仕方を変えているところです。

 実際にAIを活用し効果が出ている施策として、オウンドメディア「ABEMA TIMES」の事例があります。同メディアの一部の記事では、生成AIを活用して記事を自動生成しているのですが、クオリティの担保とコンテンツ量産を両立するよう進めています。実績として、AI活用後には記事の総本数が1.6倍、記事からのユーザー流入数は1.7倍に増加しました。また、Xのポストデータを基に、番組反響をAIが分析する「番組品質AI診断」を取り入れ、コンテンツやプロモーション設計に役立てています。

 こうした変革を前進させるために、部内でAI活用推進担当を任命しました。幸い、当社は新しいテクノロジーを積極的に取り入れる文化なので、担当者も前向きにフットワーク軽く動いてくれています。

──最後に、ABEMAのマーケティングの今後の展開・挑戦について教えてください。

 変化のスピードも量も増加している中で、これからは「いかに先手を打てるか」が鍵になります。目の前の果実を狩るのではなく、この先の変化に対して競争優位性を作ることが重要です。そういった文脈の中で、海外市場や、PPV(ペイ・パー・ビュー)、IPビジネスへの挑戦が生まれているわけです。

 事業の広がりの中で、人材開発も多様になる必要があります。それぞれの事業でやりたいことが出てきたときに、必要なアセットや人材が社内に既に存在する状態が理想ですね。この状態を作ることが僕のミッションの1つだと考えています。

 つまり、未来を想像しながら、先手で組織ケイパビリティを強化していくこと。そのための一歩が、AIを活用した業務のリストラクチャです。

 最終的には、マーケティング思考を全社に浸透させることになるでしょう。ただし、その際にマーケティング部門が主役になるのは違います。マーケティング部門が他と協業することで、あらゆる場所でマーケティング思考が育ち、「欠かせない黒子」のような存在になれたらと思います。

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この記事の著者

岡田 果子(オカダ カコ)

IT系編集者、ライター。趣味・実用書の編集を経てWebメディアへ。その後キャリアインタビューなどのライティング業務を開始。執筆可能ジャンルは、開発手法・組織、プロダクト作り、教育ICT、その他ビジネス。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/06/20 10:58 https://markezine.jp/article/detail/45408

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