顧客満足度ランキング2年連続1位のスカイマークがCSマネジメントに取り組んだ理由
━━スカイマークでは、JCSI顧客満足度ランキング(国内長距離交通部門)で2年連続No.1を獲得するなど、CS(※1)のマネジメントに注力されている印象です。貴社が注力してきた背景をお教えください。
戸田:当社はフルサービスキャリアとLCCとの間にポジショニングしており、フルサービスキャリアに近いレベルのサービスを、身近な価格で提供しています。
当初からCSに注力をしていたわけではありませんが、2015年の1月に経営が一度破綻し、その後“新生スカイマーク”として生まれ変わる際、まずは基本となる定時運航率の改善にフォーカスしました。
そこから2年半ほどで、破綻前に下から2番目だった定時運航率が国内航空会社の中で1位になれました。この時、さらなる高みを目指すと同時に、より顧客満足度の向上に取り組み、運賃が安いだけのエアラインとの差別化を図るという方針を打ち出したのです。こうして、CSの向上に取り組み始めたのが2015年ですが、DX推進を担う中川もCSやその先にあるCX(※2)に重要性を見出していたことから、現在はCXへの進化に向けた社内基盤を確立するべく一緒に活動しています。
中川:ビジネスの観点からも、ロイヤルティを高めてリピーターを増やすことが効率的であり、そのためには顧客体験価値を向上させる必要があります。しかし、現実的には時間やコストが限られている中で、カスタマージャーニーのすべての顧客接点で一気に価値を高めるのは難しいです。そこで、お客様の視点から見てより印象的な顧客体験を見極め、そこに優先的に注力することが、効率的にDXを推進する上でも重要だと考えました。
※1 CS:Customer Satisfaction/顧客満足
※2 CX:Customer Experience/顧客体験
結果よりもその過程を見るCXの視点 横断的な協力が必要
━━小川さん、田原さんに伺います。企業がCXやそのマネジメントに着目する背景を改めてお教えください。
小川:「CS」はサービスが提供された結果ですが、結果を良くするためには当然、その過程であるカスタマージャーニーそのもの、顧客体験をより良くしなければなりません。他方で、顧客が求める体験はそもそも一律ではなく、多様であることもわかっていますし、企業としてもターゲットを絞るという考え方もあります。何をどうすることで、特定の層が満足してリピーターになっていただけるのか。顧客体験の中身を分析していく必要がある。これに世の中の企業が気づいてきた、というのが「CX」重視に変わった大きなポイントだったと思います。
田原:以前はビジネスパーソンの間でもCSとしか言われておらず、部署それぞれが一部分の満足度を高める取り組みにとどまる企業が多かった印象です。企業視点でもその過程にある体験を横断的に見ることが重要だと気づいた結果、CXという言葉のほうが多く使われるようになったと捉えています。
小川:自社のCXを見ていくと様々な課題が見つかると思いますが、着手の優先順位をつけることが重要です。スカイマークさんは最初に定時運航率の改善、2番目にサービス改善に取り組んだ。最も重要なポイントを適切に見極めて素早く実行されたことが成功につながったと思います。
━━ここからはスカイマークでこれまで行ってきたCSマネジメントの代表的な取り組みについて段階的に伺います。最初期からの取り組みの変遷をお教えください。
井上:2018年度にCSワーキンググループを発足し、「みんなの気持ちと本気で向き合う」というスローガンを掲げて、まずはお客様の声を聞くようにしました。具体的には、現場のスタッフが直接聞いたお客様の声を登録する管理システム「DUMVO」を導入し、最初はとにかくネガティブコメントの解消・改善を中心とした「不満足の解消」と「嫌われないスカイマーク」を方針に据え、破綻以前のネガティブイメージを払拭する目的でこのような活動をしていました。今は「満足度の向上」「より好かれるスカイマーク」に180度転換して活動しています。
その後、よりお客様の声を直接聞くために「搭乗後アンケート」を導入しました。これが現在も続くお客様からの声を生かしたCS推進のPDCAサイクルの基盤になっています。アンケートは搭乗券のQRコードを読み取って回答いただくので、お客様の声(VoC)とともにお名前や路線なども自動的に登録されるシステムになっています。
アンケート内容は、「空港評価(出発地空港での地上係員の対応)」「客室評価(航空機内での客室乗務員の対応)」「全体評価(ご搭乗についての全体満足度)」「利用目的」「利用頻度」「フリーコメント(任意)」の6つ。毎日500~700件ほどの回答データが集まります。問題はそれを現場に取り入れてもらえるかどうかでした。