集めたVoCが現場で役に立つために必要だったこと
井上:当初はアンケートの回答データを現場にそのまま丸投げしていましたが、やはりそれでは上手くいきませんでした。多岐にわたるご意見が届けられるため、現場からしてみれば「どこから改善して良いのか?」「優先度・重要度はどう見れば良い?」と思われるような伝え方だったと思います。そのため、現在はCS推進室が回答データを分析し、取り組みの重要度・優先度を決めて伝達しています。
━━小川さん、田原さんから、これらの取り組みを踏まえてCXマネジメントの実践に求められる視点をお教えください。
小川:井上さんがおっしゃったように、最初はネガティブな面を潰そうとする傾向があります。しかしこれだと当たり前のことをしているだけなので、お客様は最終的には喜ばない。むしろCXを良くするためには、ポジティブな側面をいかに高めるかが重要です。スカイマークさんであれば、リピートしていただける施策、仕組みに持っていくこと。ネガティブ潰しを一定行った後、ポジティブ面に着目したことが良かったと思います。
もう一つは、500~700件というアンケートの回答データを現場が一つひとつ見られるわけがないので、それをサマライズする組織を作ったということ。CS推進室が、現場の業務をサポートすることを厭わないで行っていることがうまく回っている要因ではないでしょうか。
田原:加えて「きちんと人が間に入る」から納得感があるという側面もあると思います。最近ではVoCをシステムで簡単に分析・展開できるようになりましたが、それを受け取った現場が、結局何をして良いのかわからないという状況も発生しています。スカイマークさんの場合は人が入って現場と対話している。そういう企業はやはり伸びていますね。人が入り込むことに価値があるのだと思います。
VoC収集・徹底的な見える化で経営層と現場が共通認識を持つ
━━VoCの管理を始めてからどのようにPDCAを回してこられましたか。
井上:とにかく「データの見える化」には取り組んできました。たとえば、各支店の利用頻度、利用目的、年代、お客様からの評価、課題など、様々な切り口でお客様の声を「見える化」しています。支店ごとに取り組んでいるCS施策の効果もCS推進室で数値による「見える化」をして確認します。各スコア(お客様からの評価)をランキング形式で出して健全な競争意識を促し、達成したら称賛することも心がけています。
その他、前年同月比のデータや、低評価の増加率、受託手荷物早期返却の感動コメント発生率など分析し、マンスリーで推移を数値グラフで「見える化」したり、各支店の出発便の評価を「見える化」したりして、評価が高い便と低い便を明らかにするなど、徹底的に分析し、各支店の通信簿を出しています。
戸田:CS推進室で集計した前日の搭乗後アンケートのスコアが朝8時には出てくるので、10時からの全体朝会でお客様からの評価を明確化し、かつお褒め、お叱りのコメントと共に発表することで、毎朝、社長・会長を含む全役員と各部門の部長、支店長に共有されます。早い時には午前中のうちに課題を洗い出し、夕方までに改善策の策定と実行に向けて動き始めます。
田原:これを毎日やっていらっしゃるのが素晴らしいところですね。何らかの形で顧客の声を取ることは重要ですが、それをフィードバックして改善につなげるPDCAがしっかり回っている。分析者が現場のオペレーションを良く理解しないまま、数字だけを見ている会社もあるのですが、スカイマークさんは元々現場経験のある方が、今の現場の方ときちんと対話されているのが功を奏していますね。
━━モニタリングはどのように行っていますか。
戸田::まず、先述の搭乗後アンケートのデータを使って、デイリー・ウイークリー・マンスリーでPDCAを回しています。さらに、年単位でのモニタリングに役立てているのが「JCSI調査」の長距離交通業種におけるスコアです。これは自社の評価だけでなく、競合他社との比較ができる点で役立っています。
また、毎月行っている「CSマネジメント会議」にて我々のデータと現場の感覚との間に乖離がないのかを確認し、我々が出す“通信簿”に対する感想や現場で実際に出ている施策効果を徹底的に相互確認しています。
さらに毎年、CSキャラバンという活動を実施しており、こちらでは各支店や客室乗務員の部署などにお邪魔して意見交換の機会を作り、組織ごとに現状の課題やCSへの理解を深めています。
田原:一つの調査から「答え」が出てくるわけではないので、お客様のアンケート、現場視点の実感、社外による調査と、複数のソースから現状を解釈していらっしゃるところはポイントだと思います。