広告出稿媒体を増やすと計測が困難になる理由
──本日は現在のアプリ広告領域が抱える、評価分析や計測精度などの課題や今後の取り組みについてうかがいます。本題に入る前に、サイバードが展開する主な事業内容を教えてください。
松野:恋愛シミュレーションゲーム「イケメンシリーズ」を中心に、スマートフォン向けゲームアプリを提供しています。他にも、他社様のIPをお借りしてゲーム化を行ったり、公式コンテンツを展開したりもしています。
──アプリ広告に対する印象は、昨今どのように変化していますか。
松野:オンライン広告の重要性は非常に高く、現在も変わらず注視をしています。それゆえ、広告費には多くの予算を確保しているのですが、コストをかければかけるほど個別の広告の成果が見えづらくなるという課題があります。
これは、出稿するメディアや広告の種類や数が増えるほど、広告効果の判定が難しくなるからです。
もちろん、アドフラウドなどの不正広告に関する問題、アトリビューション モデルの活用方法や扱い方、プライバシー配慮の動きによりユーザーIDの取得が難しくなっている課題など、アプリ広告を取り巻く環境には日々多くの変化が起こるため、その変化に対応していく素早い意思決定が必要だと考えています。
──広告プラットフォームを提供するUNICORNは、どのような課題感を持っているでしょうか。
神田:昨今のアプリ広告市場では、プライバシー配慮の動きにより、ユーザー情報を取得することがとても難しくなりつつあります。したがって「費用対効果を正しく計測できない」という課題はより顕著になってきました。
具体的には、ラストタッチアトリビューションは、ATTやiCloudプライベートリレー、プライバシーサンドボックスなどの影響で、MMP(モバイルアプリ計測パートナー)の計測モデル自体に制約がかかり始め、計測の精度が担保できなくなっている状況です。また、計測ベンダーだけではなくプラットフォーム側が広告評価を行えるシステムを提供し始め(SKAdNetwork:Apple社が提供するiOSアプリ用の計測機能)、計測方法もMMPとプラットフォームの2つに枝分かれし始めています。
先ほど松野さんがアドフラウドなどの不正広告を課題に挙げましたが、計測の仕様を熟知した配信事業者が、よからぬ使い方をしているケースはいまだに後を絶ちません。
サイバードが行う、複合的なオンライン広告の評価手法
──オンライン広告の計測に課題がある中、サイバードではどのように対応されていますか。
松野:当社では従来からMMPを活用し、ROASや回収率の指標を組み合わせ、アプリ広告の評価を行っています。ただ、その結果を無条件に信頼することはできません。というのも、数年前にMMPで計測を行った広告経由のインストール数とサーバー情報のインストール数が、大幅に異なる事象が起きたことがありました。
そのため、MMPをベースにしつつも、他データとあわせて確認し、複合的に判断を行うようにしています。
岩本:KPIの設定も、少々工夫を加えています。たとえば、広告経由のインストールやアプリの売り上げを媒体別に比較する時はMMPを。インプレッションやクリック数を確認する時は、媒体側の管理ページをチェックしています。
なお、我々がMMPを活用して計測をしているのは、あくまで広告経由と僕らが発行をしたトラッカーURLに対してのみです。オーガニックの計測は指標に入れておらず、サーバー全体のインストール数からMMPの広告、その他メディア経由によるインストール数を引いて計測を行っています。
岩本:MMPと実際のデータが乖離していることがたまにあるのですが、そうした時は直近に配信された媒体をチェックし、計測方法におかしな点がないか、オーガニックを食われていないかなど、注視しながら計測をしています。
アプリ広告の不透明感を払拭するための3つの取り組み
──UNICORNでは、アプリ広告の不透明感を解決するために、どのような取り組みを行っていますか。
神田:具体的な取り組みは、3点あります。1点目は、アプリ広告の評価に用いられるラストタッチ計測において、ビュースルーコンバージョンがどのくらい直接的な効果につながっているのかを調査するため、内部インクリメンタリティ計測を行っています。
神田:仕組みとしては、広告の中にダミー広告クリエイティブを一部入れ込み、ダミー広告クリエイティブ経由のビュースルーコンバージョンの割合を判定してます。ダミー広告のクリエイティブ経由でコンバージョンが上がる場合、広告を見なくてもインストールするユーザーをカウントしてしまっていると考えらます。そうしたコンバージョンが多いメディアは、広告効果測定が正しく行われていない可能性が高いのです。そうした広告の傾向を特定し、今後のプロモーションの判断材料にしています。
神田:2点目は、我々UNICORNは直接ユーザーが広告を見てクリックをした「クリックスルーコンバージョン」の方がビュースルーコンバージョンに比べ価値が高いと考えているため、クリックスルーコンバージョンに配信を寄せる最適化の機能を提供しています。
場合によりMMPの計測だけではなく、App Store Connectなどのプラットフォーム側のアナリティクスを活用し、本当にインストールへの影響があったか否かを広告主様と確認しながら調整を行っています。
そして3点目は、プライバシーに配慮したモバイル計測プラットフォームの「MetricWorks」です。ラストタッチ計測、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)、その他検証機能などを組み合わせた、新しいモバイル計測プラットフォームです。デバイスIDなどユーザーデータを必要としない上、既存の評価方法よりも高精度な成果判定を可能とし、現在欧米を中心に複数の企業が「MetricWorks」を導入しています。
新しいモバイル計測プラットフォーム「MetricWorks」への期待
──サイバードでは、アプリ広告の計測にどんな課題を感じますか。
松野:媒体の特性やユーザーの動向を理解し、広告配信を行う必要があると考えているため、ビュースルーコンバージョンやクリックスルーコンバージョンの割合は、きちんと把握できる状況にしています。
ゆくゆくは、自分たちで運用を行う広告の割合を高めていくことを目的としています。実は4年ほど前に、弊社独自で広告枠ごとのクリック数やオーガニックによるインストール数が計測にどれほど影響しているのかを可視化することにトライしました。
宮﨑:「広告を見てクリックはしなかったけれど、インストールを行った」そんな副次的な効果もあわせて、広告のクリック数と実際のインストール数の関係を数式にしてみました。その時は実際に数式で表せ、それをもとに全体的な広告のパフォーマンスの把握に成功しました。
宮﨑:さらに、広告ネットワークごとの指標を出すこともチャレンジしました。しかし、十分な期間のデータを取れなかったり、数式を作成する難易度が高かったりするなどの問題があり、実用化はできませんでした。
だからこそ、神田さんから「MetricWorks」のお話をいただいた時には「チャンスが来た!」と思ったのです。副次効果を含めた、個別の広告ネットワークの評価ができるという点に大きな期待を持っています。
松野:自社で導き出した数式では、「広告メニューや媒体に、どのくらいの費用を投下すると効果が生まれる」という大体の目安は見えていました。
ただ非常に労力や時間がかかるので、出稿中の広告運用に活用することは難しかったんです。Webにおける広告運用は、週次や日次で見直しをするので、評価が判明するのが1年後では遅いですから。しかしMetricWorksを活用すれば、すぐに評価ができると期待をしています。
プライバシー配慮に対応する取り組み
──その他、アプリ広告を取り巻く課題に対し、どのような取り組みを行っていますか。
神田:現在主流のラストタッチ計測は「利用した広告メニューのROASだけ気にすれば良い」という着地点になりがちです。一方「MetricWorks」では、ラストタッチ計測の指標を含めながらMMMで評価を行う方法を組み合わせることで、費用対効果を適切に測れます。
プライバシー配慮の動きによりユーザーIDの取得ができなくなることを見据えて、今のうちからラストタッチ計測だけではない、新しい評価方法を組み合わせ、将来的にすべてのデバイス情報を取得できなくなっても困らない状態を作っていこうと動き続けています。
信頼でき精度の高い測定を実現し成果へとつなげる
──今後の展望について、お聞かせください。
松野:アプリ業界においてデジタル広告は、今後も重要なプロモーション手段であることは変わらないと考えています。だからこそ、マーケターとして高いスキルセットがより必要となるでしょう。まずは自身で習得した上で、プロダクトチームとも連携を行い、最新の情報をきちんと伝えていき、マーケティング全体の底上げをしていきたいですね。
宮﨑:ゲームアプリに限らず、昨今はエンターテインメント分野全般において、可処分時間の取り合いは激しくなる一方です。そんな環境で、当社のゲームアプリを長く利用するユーザーを増やしていくためには、より精度の高い方法で計測したデータを活用し、マーケティングのレベルを引き上げなければならないと感じています。
岩本:「MetricWorks」を活用しながら、MMPに引っ張られすぎずに公平な分析を行い、どの媒体に広告費を投下していくべきかを正しく見極めていきたいですね。
神田:我々は広告配信事業者として、広告主の方々の課題、そしてユーザーの課題を本質的に捉え、プロダクトとして解決できるソリューションを展開していきたいと思います。
その上で、広告主、配信事業者、代理店、メディア、ユーザーそれぞれが「アプリ広告を価値のあるものだ」と感じることのできるよう、業界全体をけん引していきたいと考えています。そうした方々と連携を行いながら、時流にあわせ必要なものを提供していきたいです。
今後も、サイバードのみなさんのようなパートナー企業の方々と共にあるべき未来を考えて取り組んでいき、様々な課題を乗り越えていきたいですね。