失敗を経てたどり着いた「ワンチーム×ワンミッション」
富家(EVeM):続いて、鎌田さんにも組織運営に関する失敗事例をお聞きしたいと思います。
鎌田(freee):「縦割り組織によるマーケティング機能のサイロ化」を挙げます。様々な分断が生じてチームの生産性が下がってしまったケースです。
かつて当社では、SMBの全顧客リストを担当する横断型のマーケティング組織を立ち上げ、この組織内で顧客セグメントごとにマーケティングチームとインサイドセールスチームを組成していました。
鎌田(freee):この体制にはチームメンバーの顧客解像度を高める目的がありました。しかしながらこの体制の場合、一つのチームが顧客ステータスの異なるファネルのマーケティングを担当することになるため、施策やKPIが乱立します。そして「中長期のナーチャリング」と「短期の商談獲得」のうち、思考リソースはどうしても後者に寄ってしまうのです。その結果、オペレーションの混乱や顧客リストの摩耗を引き起こしました。
この失敗を踏まえ、現在は「ワンチーム×ワンミッション」を原則としています。ファネル別の攻略テーマごとにチームを組成し、追うKPIを明確化・集中させることで、全体の生産性向上に取り組んでいるところです。当社のようにある程度規模が大きい組織では、そもそもの顧客ステータスと、それに合わせたコミュニケーション方針およびオペレーション確立の優先度が高く、それらを上位階層に位置付けるほうが良い場合もあると学びました。
富家(EVeM):ありがとうございます。組織運営面の失敗事例を紹介いただいたところで、次は施策面での失敗についてうかがいます。今村さんからお願いできますか?
今村(リコー):まず認知獲得を目的とした施策で「妄想上の顧客にアプローチしていた」という失敗があります。自社で新しい製品を発売する際、マーケターは開発当初の製品コンセプトやターゲットを踏まえて施策を考えると思います。「このターゲットに届けよう」と思って施策を実行しても、この施策によって売れる数は、いわば「放っておいても商品力で売れる数」なのです。
蓋を開けてみると、全く想定していないお客様が製品を使っている場合がありますよね。そこを逃さず発見し、新たなターゲットとしてアプローチすることにより、さらなる売上が見込めるはずです。
このように、ターゲットの見直しを繰り返してICP(Ideal Customer Profile)の設計を行う必要があります。「誰が本当のターゲットなのか」を、時間をかけて見極めたほうが、長い目で見てコストを最小限に抑えることができるためです。
「売りやすい顧客」と「製品を使って成功する顧客」は違う
富家(EVeM):ICPはなかなか聞き慣れない言葉ですが、いわゆるペルソナのようなものでしょうか。

今村(リコー):ペルソナに近いですね。ただ、一度描いたペルソナを正しく設計し直して、自分たちにとっての“理想の顧客”を見極めるプロセスが重要です。「売りやすい顧客」と「その製品を使って成功する顧客」は全く別だと思います。マーケターは後者をきちんと見つけて、施策を考えると良いです。
富家(EVeM):プロダクトの数が多いfreeeでは、ペルソナをどのように設計・管理されていますか?
鎌田(freee):15超のプロダクトごとに商談化を目指すとなると、施策がどうしてもプロダクトアウトの訴求に偏ってしまいます。機能訴求ばかりのメルマガの乱発は顧客が疲弊しますし、結局のところ受注につながりません。
そのため当社では、カスタマーセントリック(顧客中心)というコンセプトを掲げ、ペルソナを設計しています。プロダクトを基点に利用顧客のペルソナを設計するのではなく、バックオフィスで働く人たちの行動様式や課題をパターン別に整理した上で、そこに自社プロダクトの便益を当てはめていく手順を意識しています。
富家(EVeM):そんな鎌田さんの、マーケティング施策に関する失敗事例を教えてください。
鎌田(freee):「部分最適のアウトバウンドマーケティング」を失敗事例として挙げます。当社はこれまで、SMBマーケットの中でもリテラシーが高いアーリーアダプターのお客様に、デジタルを通じてアプローチすることで、成長してきた背景があります。しかし、キャズムを超えるタイミングで非連続成長を実現するためには、デジタルではアプローチしきれない後期購買層に向けたマーケティングを実行しなければなりません。
そこで、あるときからオフラインやアウトバウンドチャネルへの投資を強化しました。施策の細かい設計やコミュニケーション戦略はハマり、商談数は大きく増加したのですが、受注が全く伸びなかったんです。原因は、潜在顧客層専任の営業担当者が不在だった点にあります。
