初期戦略が大成功した「テスラ」
田中:山崎さんが、ブランド戦略が優れている例として挙げられていたもう一つのブランド、テスラについてもぜひお話をお聞きできればと思います。2024年6月現在、値下げや売上高急減など、これまで快進撃だったテスラに少し逆風が吹いているようです。しかし、一時的には非常に成功したブランドであることは間違いないと思います。お二人から見て、テスラはどのようなブランドですか?
山崎:テスラは、世界で初めて出た「EVの超高性能なスポーツカー」です。発売当時は値段も高かったですし、リチウムイオンバッテリーが大量に搭載されているから、加速力もすごい。その新鮮さ・面白さで、発売当時多くのセレブリティ(超富裕層)がみんなこぞってテスラを買いました。
結果、テスラはいきなりステータスシンボルに上りつめることができたわけです。そこからすべてが始まっており、その後、下のモデルが出た時に、最初のモデルには手が出せなかった人たちがワーッと入ってきたんですね。そこでテスラというブランドが市場に一気に浸透しました。総じて、テスラは最初の戦略が非常に秀逸だったと言えます。
価格帯を下げ始めたテスラ、この先のシナリオ
田中:そういう意味で言うと、テスラはかなりレアな成功例なんでしょうか。
山崎:そうですね。ここまで一気に成功したブランドは他に例がありません。
高田:面白いのが、イーロン・マスク氏は、元々「車なんかコモディティでよい」と思っているような人ですよね。高級車ブランドを作りたいという思いはそこまで強くなかったと思われます。ですが、彼の場合「(地球が滅びないように)EVを普及させたい」という思いが強くあります。EVは生産コストがどうしても高くなるので、高級車から市場に入ってくるしかなかったのでしょう。山崎さんと同意見で、テスラは極めて戦略的なブランドだと思います。
ただ、僕が考えている「ラグジュアリーな高級車の要件」がいくつかあるのですが、そのうちテスラが満たしている要件はほとんどないんですよ。高性能ではありますが品質は決して良くない。高価格ですが需要に応じて値下げもする。地理的文化の背景もありませんし、顧客を選ぶような排他性の演出もない。とにかく売れる価格で売ろうというのがテスラの戦略であり、これは他の高級車とは全く違います。
ですから、テスラは、メルセデス・ベンツやBMW、アウディ、レクサスなどと同列に論じることができない“新種”のブランドです。色んな意味で別次元なんです。
山崎:僕は、増えすぎた瞬間、テスラはダメになるだろうと予想しています。品質が悪いですし、アフターサービスも良くない。普通の人が普通に買って乗る車ではありませんから。また、EVにこだわり、現状技術のEVで商売していくためには、上の価格帯に留まっていないと厳しくなっていくと思われます。下の価格帯にいった先には、中国車との戦いに巻き込まれ、レッドオーシャン・大赤字に突入するというシナリオがあり得ます。