医療業界の課題から事業をスタート
MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに、石井さんのご経歴とネクイノを起業された経緯を教えてください。
石井:私は薬学部を卒業した後、MRとしてキャリアをスタートしました。働きながら大学院で研究活動も行い、「医者はなぜ忙しいのか」というテーマで論文を執筆していました。医療現場では本来なら医者がしなくてもいいような業務にも対応せざるを得ない実態があり、課題だと感じていたのです。
そうした課題感から、2013年に製薬会社を辞め病院向けのコンサルティング会社を立ち上げます。その後、2015年に遠隔診療(オンライン診察)の解釈が広がったことが契機になり、ビジネスの可能性を見出してネクイノを起業しました。従来は遠隔診療=医者のいない僻地に暮らす人や、通院が困難な病気の人のため、という認識があったのですが、2015年から厚生労働省がそういったケースに限らず遠隔診療を推進するようになったのです。
創業当初は、EDやAGAといった男性向けのオンライン診察サービスをメインに手がけてビジネスとしての勝ちパターンを探りながら、2018年にオンライン・ピル処方サービス「スマルナ」をローンチしました。
累計127万DL、ピル処方に革命を起こした「スマルナ」
MZ:「スマルナ」とはどのようなサービスでしょうか? サービス誕生の背景も教えてください。
石井:スマルナは、アプリを通してオンラインでピルの相談から診察・処方までできるサービスです。医師の診察によりピルが処方された場合、最短翌日には自宅ポストに届くことも特徴です。累計127万ダウンロードを超え、多くの方に使っていただいております。
石井:誕生の背景には、諸外国では社会実装されているピルの服用習慣が、日本では浸透していないという課題感がありました。2018年当時、ヨーロッパでは対象人口の20~30%がピルを常用していたのですが、日本ではわずか2~3%に留まっていました。このギャップを埋めて、日本でも多くの女性に医療サービスを届けようと始めた事業です。
MZ:なぜ日本ではそんなにもピルの普及率が低かったのでしょうか? また既存のピル服用者が少ない中で、どういった戦略でサービスを広げていこうと考えられていたのでしょうか?
石井:西洋と日本の女性のライフスタイルはほとんど同じです。社会的な障壁があるから、日本では普及していないのだと考えていました。その障壁を飛び越える社会背景の変化やテクノロジーの進化を起こすことができれば、市場全体が拡大するはず。当時の投資家たちにもそのように説明しました。
また、我々はすでにピルを服用している2~3%の人に「スマルナ」の利用を促すのではなく、まだピルを服用したことがない人(=医療機関にたどり着いていない層)にアプローチすることにしました。これは、医療業界とパイを奪い合わないためでもあります。2~3%の人はリアルな病院に紐づいているお客様なので、我々側に引っ張ってきてしまったら病院にとっては不利益ですよね。これは医療系の新規サービスが失敗するパターンとして多いのですが、プラットフォーム側だけが儲かる仕組みにすると、結局上手くいかないんです。