企業が持つ、深いデータが重要な鍵に
有園:パブリッシャーも広告主企業も、CDMPのような仕組みを活用すれば、自社がプラットフォーマーとなってアドネットワークを構築できるのではないでしょうか。
長山:メディアなどの企業にはコンテンツの蓄積があり、その深いデータは、プラットフォーマーが広く浅く収集しているデータよりも価値があるはずです。私はそこが非常に重要だと考えています。
先程の事例のグローバルブランド企業は、購買データなどに加えて、さらに深く直近のユーザーの興味や関心を知るために、専属のコンテンツマーケティングチームが1週間に3,000本もの自社コンテンツを配信しています。ユーザーがどのコンテンツをどこまで読んだか、どういったカテゴリーに関心があるかといった最新のデータを分析しているため、プラットフォーマーよりも自社のほうが顧客の状態を深く理解しており、そのデータを活用すれば高い成果を出せる、という考えをもっています。

パブリッシャーも、高度なコンテンツ戦略を策定し、自社のデータを深く分析すれば、既存のプラットフォーマーよりも高い解像度で顧客を理解することができるはずです。金融機関や流通企業なども含めて、ユーザーの同意のもとにデータを深く分析し、それを賢く利活用できるエコシステムを構築すれば、パブリッシャーにとっても、広告主企業にとっても、ユーザーにとっても最適な国産プラットフォームを実現できると考えています。
特定の産業のリーディングカンパニーが核となる「産業別データエコシステム」や、地域のリーディングカンパニーが核となる「地域データエコシステム」のように、特化型の広域データエコシステムも、日本に合ったモデルなのではないかと考えております。
AIが「行動」する世界に対応するために
有園:Microsoft AIのCEOに就任したムスタファ・スレイマンは、こんな話をしています。
人間が知能によってできること(IQ)はAIでできるようになってきた。人間の感情をまるで理解しているかのようにリアクションすること(EQ)も可能になってきた。次の課題は「AQ(Action Quotient)」、つまり行動指数である――。
有園:デジタル領域でもフィジカルの世界でも、AIが人間のアクションを代わりにできるようになる、ということです。そうなったときに、企業はCDMPのようなプラットフォームをもっていないと、AIにそのアクションを担わせることが不可能になると思います。
長山:非常に重要なご指摘です。生成AIの登場で、従来とは比較にならないほど、システムは潜在的な「賢さ」を獲得しました。にも関わらず、現在のオンライン広告の多くは、的外れな質の低い広告がユーザーの邪魔をするように配置されている「賢くないシステム」の代表例に成り下がっています。
パーソナライズされていない大量のメールマーケティングや、すでに購入した商品をいつまでも推薦し続けるような質の低いリターゲティングも同様で、「広告効果」どころか、広告主企業のイメージを毀損する「逆効果」にもなりかねません。企業のデータやツールがバラバラだと、AIがいくら賢くなっても、システムが賢くなることはできません。AQが大事だという世界になると、なおさら統合的なプラットフォームが重要になってきますね。
有園:あるマッサージチェアのメーカーは、AIを活用して、ユーザーのデータに基づいたマッサージを提供できる商品を販売しています。マッサージ師の代わりにAIがアクションしてくれるのです。
長山:そういったサービスが広がってくると、AIがユーザーの健康状態を把握して広告を出したり、オンライン診療を勧めたりすることも可能になりますね。人間の代わりにAIが生活をサポートする世界につながっていく。それに対応できるようにするためにも、CDMPのような統合プラットフォームを構築し、AIと組み合わせて、自社のシステムが真に賢くなれる土台を作ることが重要だと思います。
有園:AIの時代はファーストパーティデータが重要だと言われるのは、そういった世界に対応するためですね。今後はさらにデータ戦略が重要になります。本日はありがとうございました。