「自分らしさ」より「寄り添う」ことが大切
データを用いた分析によって、新たにわかったこともあります。それは「ブランドの自己表現性」と「並ぶ関係」を比べると、後者のほうがブランド・リレーションシップに対する影響力が強いようだということです。図3の分析結果に限ったことではなく、他のデータを使った分析でも同様の結果が示されています。自分らしさを感じさせてくれる小道具としてよりも、自分のことを理解して支えてくれるパートナーと認識されるほうが、リレーションシップの形成に有効なわけです。
私はこれを非常に重要な知見だと考えています。なぜなら市場を見渡すと、多くのブランドが小道具としてのブランドを訴える「プロパティー・アプローチ」を採用しているように思えるからです。
ブランドの個性を際立たせ、消費者に自分らしさを実感してもらうブランドを目指すことは確かに重要でしょう。しかし上述したようにブランド・リレーションシップの形成には「パートナーシップ・アプローチ」もあり、分析結果を見る限り、むしろそちらのほうが有効です。どうやら、消費者に「寄り添う」タイプのマーケティングのほうが、ブランド・リレーションシップの形成には貢献するようです。
「ブランドの自己表現性」と「並ぶ関係」の相対的重要性は、ブランドとの関係の時期によっても変化するようです。ブランドとの関係を、開始期、発展期、成熟期、衰退期と分けた場合、開始期および発展期では「ブランドの自己表現性」と「並ぶ関係」の影響力に顕著な違いは見られませんでした。しかし成熟期および衰退期に入ると並ぶ関係の影響が相対的に大きくなっていました。この結果からは、「並ぶ関係」が構築されていないと、せっかくブランド・リレーションシップが形成されても、衰退しやすいと考えることができます。
「フルモデル」なら詳細な分析が可能に
今回は、ブランド・リレーションシップはどのようにして形成されるかについて、「プロパティー・パートナー・モデル」を用いて説明しました。
なお前半で述べたように、プロパティー・パートナー・モデルには、今回紹介した「コアモデル」だけでなく、より詳細な分析ができる「フルモデル」があります。ブランド・リレーションシップに関心を持たれた方や、ブランドのマネジメントをお仕事にされている方は、ぜひ「フルモデル」についても理解を深めてください。
また「ブランドの自己表現性」と「並ぶ関係」の影響力は、製品カテゴリーや個々のブランドによって異なりますし、消費者の年齢によっても変化します。こうしたより実践的な内容は、拙著『ブランド・リレーションシップ』の第7章をお読みいただければ幸いです。
【参考文献】
- Bhattacharya, C. B., and Sen, Sanker (2003). Consumer-Company Identification: A Framework for Understanding Consumers’ Relationships with Companies. Journal of Marketing, 67 (2), 76-88.
- Keller, Kevin Lane, and Swaminathan, Vanitha (2020). Strategic Brand Management: Building, Measuring, and Managing Brand Equity (5th ed.). Harlow, UK: Pearson Education.
- 久保田進彦(2017).「ブランド・リレーションシップのプロパティー・パートナー・モデル」『流通研究』20(2),17-35.
- 久保田進彦 (2024).『ブランド・リレーションシップ』有斐閣.
- やまだようこ(1989).「イメージ画にみる母子関係(その 1):ささえる母ともたれる私」『幼児の教育』日本幼稚園協会,88(5),50-56.
- やまだようこ(1990).「イメージ画にみる母子関係(その 6):ならぶ母と私」『幼児の教育』日本幼稚園協会,89(3),47-55.
- やまだようこ(2010).『ことばの前のことば:うたうコミュニケーション(やまだようこ 著作集 第1 巻)』新曜社(原版は 1987 年発行).
