【特別寄稿】本当のインクルーシブデザインからは生活者の分断は生まれない
多様性の時代、インクルーシブデザインは、従来の製品企画や開発のプロセスから排除されてきた人々の視点からの新しい課題の発見や、次の社会を捉えたサービスやプロダクトの新たな価値を創出するものとして注目を集めています。
前提として、ユニバーサルデザインとの違いも含めて、こちらの記事に詳細が掲載されていますので、ぜひご一読いただければと思います。
今回の対談で強く感じたことは、フェリシモさんの「オールライト研究所」の取り組みは、すべての人のマイノリティ性を包含する、一歩進んだインクルーシイブデザインであるということ。そして同時に、『マイノリティ・デザイン(誰かの、あるいは自分の「マイノリティ性」に着目し、「弱さ」を「新しい強さ」に変える。)』の体現でもあるということでした。
記事でも「事業性の担保」に関して扱いましたが、DE&Iを軸に置いたビジネスは、事業生の担保は難しいと思われがちです。しかし、マイノリティ性を見つめ、引き出し、掛け合わせることは、斬新なアイデアや新たな市場創造につながる重要なトリガーになる可能性が高いという認識も広がりつつあります。その可能性の根拠を2つの観点から探っていきます。
(1)斬新なアイデアは「マイノリティ」が生みの親であることが多い
記事においても、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)について触れていますが、特に自身の取り組む専門領域において、マジョリティに寄り添った「当たり前」の思い込みは斬新な発想を妨げ、イノベーションを創造することの弊害になっている可能性があります。
スイスのIMDビジネススクール教授達の研究によると、主流ではないグループ、いわゆる「マイノリティグループ」に属する人のほうが、先入観に囚われないため、斬新な解決法を開発するために必要な「複数の要素を組み合わせる」思考を簡単だと感じることが多いということもわかっているそうです。
たとえば、難解な研究テーマに褒賞金をかけて、解決策を公募できることで、注目を集めるクラウドソーシング・プラットフォーム「Wazoku(ワゾク)/旧InnoCentive(イノセンティブ)」。MIT Sloan Management Reviewによると、このプラットフォームに投稿された166の問題解決コンテストに関する研究では、受賞したアイデアは該当分野とは別の領域を専門とする「マイノリティグループ」に属する人たちが、生みの親であることが多かったという事実が明らかになりました。

様々な場面でマジョリティ、マイノリティの定義は異なりますが、既存の考え方に囚われない、マイノリティ視点を活かし、引き出すことが、新しいイノベーションにつながってくるのかもしれません。
(2)多様なマイノリティニーズの共通項が新たな市場創造につながる
市場を作るためには、取り引きを希望する参加者を大勢集めることが前提です。あらゆるモノ・コトが飽和状態の現在において、多様な生活者が普段は意識しないけれど、可能であれば解決をして欲しい「マイノリティなニーズ」の共通項を見出すことは、市場への参加者を集めるきっかけになるのではないでしょうか。
実際に、対談でone hand magicのお話を伺う中で、自分の毎日の「ちょっと困るな」というシーンが一気に頭の中を駆け巡りました。「オールライト研究所」のブランドに事業性を感じるのは、本当に困っている当事者を起点にしながらも、可視化されたアイデアが多様な生活者の「私のちょっとした困ったシーン」を解決してくれることを具体的に気づかせるところです。
手に障がいのある人が困っていることは、小さなお子さんを抱っこしながら生活を送っている人にも役立つことがありますし、足に障がいのある人が困っていることは、高齢者にも役立つこともあります。マイノリティ性のチャンクは違いながらも、多様な生活者のマイノリティなニーズの共通項を発見し、それを満たすことは、ニッチではなく、革新的な市場形成の核となり得るのです。
このマイノリティなニーズの発見で広がったものは多くありますが、その一つの例として「グルテンフリー食品」が挙げられます。元々は、小麦アレルギーや「セリアック病」という難病を持つ人々が間違えてグルテンを含んだ食品を食べないように、と食事療法として取り入れられたことが始まりでしたが、今では、「少し疲れやすいな」「消化器系に少しだけ不快感があるな」そんなマジョリティ層のマイノリティニーズを満たすことで、多くの人に支持をされています。
「オールライト研究所」の、すべての人のマイノリティなニーズに応えるプロダクトは、押しつけのソーシャルノームから解放されて「自分らしくいること」そして「自分らしさを愛せること」を後押しているように思います。不毛な「マイノリティvs.マジョリティ」の分断を生まない、新しい価値提供の本質に触れられたように感じました。(特別寄稿:白石愛実)