大企業特有の課題、マーケティングの共通言語化や専任人材育成の難しさ
MarkeZine編集部(以下、MZ):まず、ヤマハがマーケター育成の観点で従来抱えていた課題について教えてください。
加藤:長年、全世界で様々な種類の商材を扱ってきたヤマハでは、商品や地域ごとに“最適”を目指して事業を展開してきました。その方針自体に誤りはなく、成果を出せていた一方、事業や地域により、ヤマハへのイメージにばらつきが生じるという課題を抱えていました。
加藤:このブランドイメージを統一できれば、ブランドへの求心力も上がり、さらなる成長にもつながります。そこで2016年にヤマハ全体としてのマーケティングの部署が設立され、ブランドイメージの統一に向けて活動を行ってきました。活動する中で感じられたのは、各事業部門のマーケターによって用いる言語や知識、フレームにばらつきがあるということです。これらを全社で統一し、共通して使える環境を目指すべきと考えました。
加えて、事業部門には異動があるため、マーケターを専任で育てることが難しいことも課題でした。ゆえに、マーケティング部に配属されたものの「マーケティングについて詳しくない」といったことも起こっていたのです。
これらの課題解決に向け、当初はコーポレート・マーケティング部門で研修を内製し、各事業部門に対して実施していました。しかし、前提知識に大きな“ムラ”がある中では各スタッフが実務に使える知識を得ることが難しく、成果につなげることができていませんでした。
即戦力になる人材を育成するマーケティング戦略の「型」
MZ:多くの企業でもヤマハと同様の課題を抱えていると思います。これまで数多くの日本企業を支援してきた田岡さんはその要因についてどのようにお考えですか。
田岡:多くの大手企業では、事業を推進するリーダー人材が不足しているという課題を抱えています。その課題解決に向けて様々な研修を導入するものの、実際には「部分最適で体系化されていない」「自社の実務で使えない」ことから、「研修が事業成果につながらない」というパターンがほとんどです。
田岡:では、どうすれば良いのか? それは、仮説思考・顧客思考・戦略思考など、マーケティング戦略を立案する上で必要な一連の思考方法を体系化した「型」をインストールすることだと我々は考えています。これができれば、組織の“共通言語”が得られ、複数のチームや事業部門でも各メンバーがマーケティング戦略を同じ粒度で理解可能になります。
また、自社に必要な戦略の型があればこそ、新たにマーケティング部に異動してきた人材でも即戦力に育てやすくなります。これらの理由からこの「型」のインストールが非常に重要であると言えます。
MZ:ヤマハでは、これまで挙げられたようなマーケティング人材の育成課題を解決すべく、susworkの協力の下で2024年1月からマーケターの育成を目的とした研修プログラムを開始したと伺っています。実際にどのような内容だったのか教えてください。
赤尾:2024年は4種類のプログラムをオンラインとオフラインそれぞれで実施し、計8回開催しました。プログラムの内訳は、「顧客理解」「顧客価値・体験定義」研修、「デジタル広告・クリエイティブ」研修、さらに幅広い方に向けた基礎的な「企画超実践」研修です。
赤尾:研修を行う上で最も重視したのは、受講者が研修内容を自分ごと化しやすいことでした。いきなり新しい言葉に触れ、やみくもに学ぼうとすると混乱してしまいます。
その点、今回suswork様が行った研修では、まずマーケティング戦略の型として活用できるフォーマットを、社内で既に活用していたフレームや言語をブラッシュアップする形で作成いただきました。研修の内容についても、ヤマハ自体や関連商材の事例を活用して戦略の型を教えていただくなど、あらゆる面で徹底いただきました。
「体系化」と「実践」の両輪で効率的に「型」をインストール
MZ:これまでの一般的な研修プログラムと比較した時に、susworkの研修で特徴的だと感じた部分を教えてもらえますか?
赤尾:講師と参加者のコミュニケーションが多い、インタラクティブなスタイルであることが特徴的でした。すべての研修で実践ワークを豊富に取り入れており、個人でも実際に自分が関わる事業をテーマに手を動かすワークショップを行ったのですが、その実践内容を数名が発表し、その場で田岡さんが戦略策定のポイントやアドバイスを説明する、いわゆる“壁打ち”の機会が豊富にありました。
こうすることで、参加者一人ひとりが主体的に研修に参加することに加えて、発表してくれた他の人の意見やそれに対する田岡さんからフィードバックも聞けるため、参加者全員にとって非常に有意義な研修となったと思います。
また、田岡さんは講義の合間で随時、参加者に感想を聞く時間も設けてくれていました。これは質問ではなく“感想である”ところが肝だと感じていて、他の参加者が「関心をもった箇所」を言語化することで新たな気づきを得られます。ただ質問を募るだけよりも感想のほうが発言しやすいため、研修自体が活発化していましたし、感想を話す中で新たな質問も生まれていました。
MZ:susworkとして今回の研修を実施する上で意識していた点はありましたか?
田岡:今回の研修プログラムのポイントは、「体系化」と「実践」でした。ここでいう体系化とは、先述したマーケティングの一連の「型」をヤマハ流として整理し、浸透させることを示しています。これがない場合、たとえ良い内容の研修を行っても、実務のどこでそれを活かせば良いのかわからず、結果的に研修内容が無駄になってしまう可能性が高まります。
そのため、まず当社とヤマハ様の間で会社全体としてあるべきマーケティング戦略の道筋を整理し、一緒にブラッシュアップ。その道筋の中から特に重要である「顧客理解」「顧客価値」「顧客体験」「企画実践」などの部分をピックアップし、重点的に研修に落とし込みました。最終的に、先ほど挙げられた全4種のプログラムへと組み込んでいます。
また、実務へとわかりやすく結びつけるために、研修内でワークショップの時間を設け、受講者自身のビジネスに関する初期仮説を立ててもらいました。その上で、その仮説に対して私が研修内でフィードバックを行いました。
こうすることで、実務での戦略やゴールを意識しながら、その戦略を実行するために理解すべき要素を研修の中で学ぶ。そして研修を終える頃には、研修で学んだ内容を活かしながら自身で戦略を立てられる仕組みになっていました。
口コミで参加者が増加し、1年間で7部門横断、250人以上が参加
MZ:研修プログラムを導入するにあたって設定した目標を教えてください。
赤尾:初年度である今回は、各事業部に所属するマーケターのうち「本当に研修を必要としている人たち」が研修を受け、理解・満足してもらうことを重視しました。
中でも「各部門が継続的に参加すること」は特に重要視していました。たとえ1回目の研修で参加してもらえなかったとしても、満足度が高く離脱部門がなければ、評判を聞いて新たに参加してくれる部門を増やすことできます。実際、今回の研修は回を追うごとに参加部門が増えていきました。
MZ:同研修を通して得られた成果について教えてください。
赤尾:計7部門から、延べ250人以上が参加してくれました。実際に参加したのは、楽器、音響機器、ゴルフ関連、音楽教室などの事業部に加えて、営業本部、デジタルマーケティングチームまでと様々でした。それ以外にも、商品企画や開発に関わる人なども参加してもらえて反応も良かったため、今後はさらに対象を広げていきたいと考えています。
また、受講後に実施したアンケートでは97%が「満足した」と回答。理解度に対しても同様で、97%が「理解した」と回答しました。研修内容は、実際に業務で積極的に活用されており、田岡様や我々に対して、「企画書を書いてみたから壁打ちしてほしい」という相談も多数寄せられました。
事業の成長に向けた人材や組織の基盤となる、戦略の「型」
MZ:今回のヤマハの事例も踏まえて、改めて企業が人材育成に注力する意義をどのようにお考えですか。
田岡:企業にとって重要な資源は数多くありますが、その中でも「人」が持つインパクトは非常に大きいです。そんな、企業にとって重要である「人」が考えるための“OS”にあたるのが戦略の「型」だと言えます。ゆえに、今後企業が成長を目指す上では、単に「人を育てる」のみならず「どのようなOSを会社にインストールすべきか」も考えることが根本的な組織の強さや競争優位につながるはずです。
田岡:どんなに熱量が高く能力的に優れた人を有する企業でも、自社のマーケティング戦略に対する“共通言語”がなければ、自社で活躍できる優れた人材の育成もその人材に最大限活躍してもらうこともできません。逆に言えば、それさえあれば優秀な人材も育成できますし、組織も潤滑に動きます。
特にマーケティングや事業に関わる人材の育成は、事業成長の観点からも欠かすことはできません。中長期で成果を出すために、リソースを割くべきだと言えるでしょう。
赤尾:当社のように“生活必需品ではない”商材を扱う企業にとって、お客様へ適切なタイミング、適切なストーリーで商材の価値を伝え、“共感を得ること”が何よりも重要です。そのためには、マーケターが、お客様の声や市場の変化をくみ取れる能力や、質の高い企画立案、社内全体での連携強化、がヤマハのブランド力向上に大きく寄与すると考えています。
加藤:赤尾の話に加えて音楽の領域で勝ち残るには、お客様のニーズを捉えるだけではなく、インサイトを捉えた価値提供が必須です。そんなインサイトの掘り起こしには、基本的なマーケティングの素養獲得に加えて、それを使いこなす力、そして“ヤマハ流”のマーケティングを確立していく必要があります。それが結果的に他の企業との差別化となり、ヤマハの成長につながるでしょう。世の中で名を馳せているマーケティングの先進企業同様に、当社も我々らしい“ヤマハ流”のマーケティングのあり方をつくっていきたいと思います。
“ヤマハ流”マーケティング戦略で事業成長を目指す
MZ:最後に、今後の展望についてお聞かせください。
加藤:「事業部門の人々を育てるボトムアップ」と「各事業部に所属する人材の専門性を磨き成果創出につなげる」という二つの軸で人材を育成していく必要があると考えています。
このバランスを取りながら、人材育成を行うのが我々のようなコーポレート部門の役割ですので、suswork様の知見をお借りしながら、ヤマハの事業成長に貢献していきたいです。
赤尾:今回は特定の部署を対象に研修を行いましたが、今後は全社向けに事前に案内を行い希望者全員に参加してもらえる仕組みにしていきたいと考えています。そのために運営体制などは今よりもさらに良いものに整備していきたいですね。
赤尾:その上で、研修を通じて部門を越えたつながりを活性化することで、社内でマーケター同士が切磋琢磨できる環境やコミュニティを構築していきたいと思います。
田岡:2025年度も当社の研修を通してヤマハ様が事業を推進する上で重要になる「型」を今よりもさらに浸透させていきたいです。それに加えて、ヤマハ独自の専門的な視点や、音楽の領域でマーケティングを行う上で必要となる情緒的な価値を創出していくための方法なども当社の知見を活用しながら支援し“ヤマハ流”の型をさらに進化させていきたいと思います。
またヤマハ様に限らず、企業が競争力を上げるには、自社ならではの戦略の型「○○流」を作り、根付かせていくことが重要です。ベーシックな部分は当社で提供しつつ、企業ごとにカスタマイズすることで、それぞれの企業独自の型を浸透させていく。そして、この型をベースに人材育成、知見を蓄積をしていくことが中長期で事業成果の創出につながると思います。当社では今後、今回のような取り組みの支援を「Growth Academy」というサービスで、幅広い企業の方々に展開していきます。
田岡:マーケティングは、「顧客を理解し、価値を届けること」。マーケターだけではなく、商品企画や営業など、顧客に関わる人すべてにとって重要な考え方です。当サービスを通してマーケティングの考え方を各社にインストールすることで事業成長を支援し、社会に貢献していきたいです。
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