チャンスよりリスクを意識 「静的な満足度」へのパラダイムシフト
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その要因としては、各世帯の高年齢化が進んでいることも一つだが、「長引いている景気の停滞がある中でチャレンジはチャンスよりもリスクを意味するものと捉える価値観になってきているのではないか」とも松下氏は述べている。
これに関連しているように思えるのが、「生活満足度」の項目だ。その分析と見解にも触れておきたい。
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2009年と2012年の間で「一段上がる」ように変化しているが、その間に起きた大きなできごととすればやはり東日本大震災。「未曾有の災害によりそれまでの生活が一瞬にして崩れ去ることがあるという事実を目の当たりにしたことで、『平穏無事な人生を送れている現状に感謝し、満足する』といった考え方が非常に高まった」と松下氏は述べる。さらに、その後の調査結果を見てみると、コロナ禍に際していてもそうでなくても、景気の動向が良くても悪くても、2012年から徐々に満足度は高まっていることがわかる。
「日本人の考え方は、上を目指すという“動的な満足度”から、今持っているものに感謝するという“静的な満足度”にパラダイムが変わったとも言えるかもしれません」(松下氏)
災害で言えば、松下氏は「生活不安」に関する結果で、地震・津波などの「自然災害」への不安が非常に高まっていると指摘していた。直面している不安や悩みとして回答した割合が全体の54%となり、2012年時調査の38%に対しても非常に大きくなっていることがわかる。また、昨今の国際情勢に不安を感じている人の割合は、全体で約8割となり、年代が上がるほど不安度が高くなることもわかった。
「頑張らない働き方」「静かな退職」が進む
就業価値観に関してはどのような変化があるのか。松下氏は、まず夫婦共働き世帯の増加を指摘。夫婦のどちらも正社員で働くという「ダブルエンジン型」の割合が増えており、世帯年収の構成比を見ても、大きな収入を得る世帯が増えている。先述の結果において示されていた互いの自立、あるいは互いに支え合う夫婦観が表れたと言って良さそうだ。
長期時系列変化では、ワークライフバランスへの意識が依然として高まっており、「頑張らない働き方」が増えている。様々な働き方が許容されるきっかけになったコロナ禍を経て副業/複業への意向が高まっているとの見解もあるが、特に着目したいのは、「人並み程度の仕事をすれば良い」という意識の高まりだ。
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これは、2022年頃に欧米を中心にSNSを通じて広まった「クワイエット・クイッティング(静かな退職)」とも呼応する動きだ。心の病、燃え尽き症候群を回避するために上を目指して必要以上に頑張ることをやめるといった考えのことだが、日本でもその傾向が伸びていると松下氏は語る。
その他、直近3年の変化として挙げておきたいのはテレワークの変化だ。テレワーク業務の実施者は、22%から16%へと減少したが、一部は継続して実施している。従業員規模の大きい企業での減少傾向が高いようだ。関連して、地方や田舎で暮らしたい意向は20代~30代で約4割に昇る。コロナ禍で促進された場所を選ばない新たな働き方は、若い世代を中心に定着したとの見解が示された。
続いて見ていきたいのは、具体的なマーケティング施策や売上とも直接的な関わりが強い「余暇・チャネル利用」の調査結果。「積極的にお金を使いたい費目」に選ばれているのは何なのか。