AI活用の限界と見極めるポイント
オリジナルで開発しているシステムとはいえ、懸念事項はある。コアとなる各種AI、特に画像生成AIが外部サービスに依存しているため、クオリティコントロールが難しい、あるいは不可能といった問題が出てくる。たとえば、同じプロンプトにも関わらずいつもとまったく異なるテイストの画像が出てくる2日間があったという。

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また、AIの急速な進化により、弱点を克服した最新モデルが次々と出てきて、検討材料が増えがちだという。そのためQCD(品質・コスト・納期)を考慮し、「開発の軸を持つこと」「(適切な生成AIへの)切り替えを前提にした設計」が不可欠だと、馬場氏は語る。
次々と変化がやってくる現状の中では、システム開発の本質的な目的を見失わずに判断しないといけない。切り替えを前提にした設定が大切な理由は、AIの世界では昨年のトップランナーが今年は2軍に転落するような激しい技術革新が日常茶飯事だからだ。馬場氏は人間、ロジック、AI、それぞれの役割分担をしっかり考えることを重視している。

「バナーに用いるコピーライティングも、生成AIでやればいいと言われることがありました。確かにAIができることではありますが、AIが担う作業を増やすことは開発コストとスケジュールに影響します。そのため、自分たちの業務で本当に必要なのか、達成すべきゴールを見極めることが大切です」(馬場氏)
AIで実現可能だとしても、すべてAIに委ねることがベストとは限らない。目的と照らし合わせて機能が過剰になっていないかどうか、投資対効果も考えるバランスが求められる。
工数50%削減!投資対効果と今後の展望
同システムのβ版導入によって、デザイン考案、ラフ作成、仕上げといった対象業務の工数が50%削減、開発費用を回収できる見込みが立った。

ネット広告の配信先に合わせてバナーをリサイズする機能の開発により、さらなる工数削減も可能だ。インハウスデザイナーが自身の好みとは異なる方向性でクリエイティブを制作するなど、表現の可能性も広がっているという。
広告コミュニケーション用に開発したシステムではあったが、オウンドメディアや記事、auの各種アプリケーションにもバナーは必要なため、KDDIグループ内での使用範囲の拡大が期待できる。
馬場氏は同システムの外販も視野に入れており、「企業の宣伝部門が売上を生み出せたらおもしろい」と語る。多くの企業が使うようになれば、KDDIのメンバーだけでは考えられなかったレイアウトが出てくることも予想される。業界ごとの特性などのデータが蓄積されれば、クリエイティブのパターンが広がり、デザイナーを刺激できるのではないだろうか。
一方で、アウトプットの権利侵害への配慮が必要不可欠だと指摘する。アニメ調やイラスト調も技術的には出力可能だが、既存作品への類似という懸念があるため、現状では写真スタイルの出力に留めている。
最後に、KDDIが独自開発した理由を、「ブランド遵守×データドリブン×効率化」を実現するためであり、新しいもの、おもしろいもの、先端技術にトライできる文化がある企業だからとまとめた。
AIの進化は目覚ましいが、それを活用する企業側の視点こそが価値を生み出す。KDDIのコミュニケーションデザイン部の挑戦は、AI時代にブランド価値を守りながらデータドリブンなマーケティングを実現する上で、参考になるはずだ。