根本的な課題は「高度な分業体制」にある
藤平:ブランド戦略とクリエイティブを一気通貫させて、それを統合的にエグゼキューションしていく。言い換えると、戦略策定で終わらず、クライアント企業の広義のコミュニケーション活動を“代理”できるというのは、広告会社にしかないケイパビリティだと考えています。さらに言うと、我々は生活者の“代理”という視点も兼ね備えながら、それらを実行できる。戦略だけの「頭でっかち」でもないし、「面白アイデア集団」でもありません。
戦略・クリエイティブ・メディアで一枚岩となってクライアントに向き合えるのが強さなのに、実態としては「個別最適化」になってしまっている。そんな共通の課題がここまでで見えてきました。横田さんは、この課題にある根本的な問題は何だと思いますか?
ちなみに、僕は広告会社の「高度化しすぎた分業制」と「専門組織による縦割り感」が根本的な問題だと考えています。領域の拡張を繰り返しながら進化してきた分業体制にも限界が来ているのではないかと。
横田:非常に共感します。縦割り体制を変えなければならない、という課題感はWPPジャパンでもあり、2年半ほど前から「One WPP」を掲げた取り組みを行ってきました。概要だけお話しすると、WPPジャパンの役員会のような場が週に1回設けられており、そこでいま進行しているプロジェクトを並べ、誰がどのプロジェクトに入るとよいかを役員レベルで議論するようにしています。
また、共同CEOに就任したVML & Ogilvy Japanでの私のチャレンジで言うと、まさに藤平さんがおっしゃっていた課題に対応するために、クライアントからブリーフィングを受ける時には各チームのリーダーが集まり、戦略~アウトプットまでを繋げて議論できるようにしていきたいと考えています。ビジネスリーダーである営業と、戦略、クリエイティブ、メディアのリーダー4人が基本セットになるイメージです。
藤平:素敵な取り組みですね。横田さんのように、広告業界の全領域で経験豊かなキーパーソンが1人いれば解決できることもあると思いますが、実際の現場ではやはりそうもいきません。特定の領域で経験豊富な10年選手が複数人集まってスクラムを組んでリーダーシップチームを形成し、プロジェクトを推進するというのが博報堂のような会社の場合も勝ち筋になるように思います。そしてそれがクライアントに対しても、最も誠実なのではないでしょうか。

横田:そうですね。世の中を広い視野で見た上で、インテグレートされたソリューションを提供するのが、クライアントのパートナーである私たちの役割です。その役割を果たせるよう、広告会社も変わっていかなければと思います。