CMOの重要な役割である、リーダーシップとコミットメント
中東氏は「(CMOの立場なら)どこに向かってリードするのかを明確に考えることが重要だ」と回答。「マーケティングという職責におけるゴールとは何かを自問自答し、コミットすること。世界一のBtoBマーケティング企業を目指すでも、日本一を目指すでも、業界1位を目指すでも構いません。その設定した目標に対して、自らにコミットメントを課すことがリーダーシップの本質であり起点だと考えます」と述べた。

さらに、「CMOの役割は売上成長だけでなく、CxOとして役割の拡張にも対応していく必要がある。企業経営としては、短期的な視点でCMOを頻繁に交代させるのではなく、持続的な成長にコミットできる人材を育成し、マーケティング機能全体を束ねることが重要だ」と指摘した。
こうした状況下で、AIはマーケターの能力拡張を支援する強力なツールになると中東氏は語る。
「AIは、マーケターのパーソナルトレーナー、パーソナルアシスタントとして、役割拡張を支援してくれる存在となり得ます。将来のCMOの役割は間違いなく増え続けますが、AIを活用することでその負担を軽減し、より戦略的な業務に集中できるようになるはずです」(中東氏)
AI活用に期待する「同じ失敗をしない仕組み」
中東氏は、AIを活用した機能拡張の具体例として、「マーケティング基礎教育の授業計画案作成」「海外関連法規制の状況調査」「役員向け資料作成」「Webコーディング支援」「業界OSINTリサーチ」「海外資料の翻訳とサマリ」などを挙げる。
「これまで専門教育や海外を含めた書籍の読破が必要で、かつ多くの実践経験によって得られた“知的アウトプット能力”が、短期・低コストで得られるようになりました。もちろん基礎的な部分が多いのですが、そうした知的アウトプットで重要な”広い裾野”をAIが強力にサポートしてくれるのです」(中東氏)
そのほか、多言語対応の動画作成ツールなども活用し、グローバル展開を加速させていると言う。クラレでは経営層もAI活用を推奨しており、現場レベルでもメルマガコンテンツ作成や多言語化などに活用している。中東氏自身も、AIを活用して資料作成や情報収集を行い、自身の機能拡張を実現していると言う。

「私たちの世代は、テレビCM、デジタル、マーケティングオートメーション、インサイドセールスなどの様々なマーケティング手法を『とりあえずやってみろ』と言われて試行錯誤しながら経験を積むことができた世代です。しかし、今の世代はそれらが既に存在する前提で仕事をするため、同じ経験や失敗をする機会はありません。そこで、効率的に知見を蓄積するためのツールとしてAIはとても有効です。過去の失敗をショートカットし、『車輪の再発明』を防ぐためにも、AIの活用をしてもらえたらと思います」(中東氏)
最後に中東氏は、改めてCMOの役割拡大への予測に触れ、「DX推進などにおいて、経営層が追いついていない部分を、マーケターがリーダーシップを発揮して補完していく必要がある」と論じる。AIなどのテクノロジーを活用しながら、前向きに改革に取り組む重要性を訴え、講演を締めくくった。