「プロダクトアウト」の時代に。重視すべきことは?
ブランドホイールでは、「プロダクトアウト」が基本となります。なぜなら、魅力的な商品・サービスでなければ、消費者が自発的に拡散することはないからです。

──日本企業の間では、「プロダクトアウトからマーケットインへ」を目指すことが主流になっていますよね。
おっしゃる通り、従来はプロダクトアウト型が主流だったものの、市場のニーズを十分に汲み取れていなかったという反省から、マーケットイン型のマーケティング強化が叫ばれるようになりました。
しかし、従来の「プロダクトアウト」がうまくいかなかったのは、「プロダクトアウト=スペック(性能や機能)ファースト」のアプローチに陥っていたためです。スペックを前面に出すあまり、お客様にとっての本当の価値が伝わらなかったのです。
大切なのは「文脈は何なのか」「お客様にどう伝えるのか」ということをプロダクト開発時点で考えることです。プロダクトができてから「これをどう売ろうか」と考えても、実はもう遅いのです。作る段階から、どう伝えるかを考えておかなければなりません。
──マーケターに求められるスキルセットも変わっていきそうですね。
そうですね。今でもマーケターというと「広告を回す人」というイメージが強いですが、これからは製品開発部門と協働して、みんなが共有してくれる、シェアしてくれる文脈を作ることが重要になります。
極端なことを言ってしまうと、広告に多額の投資をし、それだけに頼らなければいけないということになっている時点で、もう何かがおかしいのです。広告には広告の役割があり、それは今後も変わりませんが、たとえばOpenAIのChatGPTは、まったく広告を打たずに、ものすごい勢いで伸びました。プロダクトがわかりやすくて良いから、自然に広がっているわけです。
消費者がプロダクトから得た体験をシェアする存在になる中で、マーケターは広告を打つ立場から、コンテキストを作る立場へと変化しつつあります。そうすれば、その魅力が自然に広がっていくため、広告だけに頼るマーケティングを行う必要もなくなるでしょう。
必要不可欠な企業となるために、本質的な価値創造を
時代の変化というと、AIの存在も無視できません。しかしながら、数学や文法のような白黒がはっきりした分野ではその力を実感できても、ブランディングのような主観的・感覚的な判断が必要な領域では、経験豊富な人間のほうがAIよりも圧倒的に優れていると感じています。
また、AIは活用次第では、人間の思考力が低下する危険性もあるのではないでしょうか。私は大学で講義を担当しているのですが、学生から提出された課題を見ていても、単にAIを使っただけの内容と、AIを使いつつも時間をかけて深く考え抜いた内容の差は明らかです。考えることをAIに完全にアウトソースしてはいけないと思います。
──最後に、今後の展望をお聞かせください。
私が2015年に独立し、2016年に会社を正式発表してから、まもなく10年になります。2025年になり、I&COのパーパスを「Make What Matters」と再定義し、明文化しました。
私たちが企業支援を行う際も、このパーパスを念頭に置いており、その企業様がいかにして世の中で必要不可欠な存在になれるかを常に意識しています。一時的に売り上げが上がるような「バズる」施策よりも、本質的な価値創造を重視しています。これが私たちの活動の根源であり、展望です。