AIエージェント活用の「成否」はどこで決まるのか
MZ:既に国内の数十社でAIエージェントを活用したマーケティングが動いているということで、山崎さんは様々な企業での活用を見てこられたと思いますが、AIエージェント活用の成否は、どこで決まるものでしょうか?
山崎:企業の受け入れ体制によって、成否が大きく左右される印象があります。AIエージェントを導入するには、人と組織を大幅にアップデートしていくことも必要です。たとえば、時代をさかのぼると、かつては表計算ソフトも目新しく受け入れがたい人がいたはず。ですが、今では一般的な会社組織に必要不可欠なツールですよね。AIエージェントも同様に「全員が触れて、使い倒していくこと」が重要でしょう。
MZ:なるほど。それを踏まえて、AIエージェントを活用する際に企業側で準備しておくべきことも教えてください。
山崎:2つあります。1つ目は、AIエージェントを「自社ナイズド」するためのデータ基盤の整理です。たとえば、自社顧客のAIエージェントを作るための1stパーティーデータ、専門家のAIエージェントを作るための自社商品データなどは可能な限り準備しておきましょう。
2つ目は、業務プロセスの変化に応じた組織作りです。繰り返しになりますが、AIエージェントは使わない限り組織に定着していきません。新しい業務プロセスを構築していくために、既存のマーケターに加え、AI技術の高い人材を登用することも必要になるかもしれません。また、経営層がAIエージェントに理解がある企業のほうが、活用がスムーズに進む印象があります。
MZ:AIエージェントを活用する際、留意すべきリスクはあるのでしょうか?
山崎:留意点は2つ考えられます。1つ目は、AIエージェントの情報を鵜吞みにしないこと。AIエージェントが出力した情報をしっかりと咀嚼し、各社が「自分ごと化」すること、全体像を把握してオーケストレーションしていくことが大切です。
次に2つ目ですが、AIエージェントが当たり前になった世界では、競合優位性が出しにくくなってくると考えられます。現在は先行者利益の高い状況ですが、5~10年後にはどの企業も使い始めるかもしれません。AIエージェントを使うにも、自社ならではの差別化が求められる時代になるでしょう。
「独自の1stパーティーデータ」「専門家AIエージェントの知見」「多数のAIエージェントを稼働できるだけのマシンスペック」など、差別化ポイントは複数考えられます。データドリブンから、AIエージェントドリブンになっていく新時代に向けた準備が必要です。
マーケターでなく、生活者や社会側の過渡期もある
MZ:現在はAIエージェント時代への過渡期だと思われますが、どのような要素が揃えばこの過渡期を越えることができると考えられますか。
山崎:まずは、大規模言語モデル(LLM)を提供する各社の利用コストの低下。加えて、企業側、生活者側のリテラシーが向上することが必要でしょう。生活者はAIに潜在ニーズを分析され、新しいアイデアが生成されていく状況に、最初は戸惑いを覚えるかもしれません。データの扱われ方などを正しく理解してもらった上で、生活者に受け入れてもらうことができれば、AIエージェントはさらに大きく発展していけるのではないでしょうか。

MZ:最後に、AIエージェント時代のマーケターに必要な考え方やスタンスがあれば教えてください。
山崎:AIエージェントの情報を最終的に判断するのは、やはり人間です。マーケターの皆さんには、見極める力を磨き、自分のポリシーや情熱を大切にしていってほしいと思います。
AIエージェントの活用によって、生活者の顕在・潜在ニーズを探索することができ、マーケティングの圧倒的な精緻化・高度化が実現する世界になりました。これにより、マーケターのあり方や世界観は従来と大きく変わっていくかもしれません。
そんな中でも、AIエージェントの特徴や、マルチエージェントによってできることを理解して、情報を取捨選択し、しっかり自分の中で消化していけるマーケターは強いでしょう。使いこなすことができれば、AIエージェントはマーケターの能力を大きく拡張させる心強いパートナーになっていくはずです。
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