「感情」に寄り添った広告を「データ」に基づいて実現する
――広告事業についてもうかがいます。DAZNではどのような広告商品を提供していますか?また、DAZN広告の強みは何でしょうか?
黒川:DAZNでは試合の前に入るプレロール広告や、試合中に入るミッドロール広告といった広告配信、番組タイアップなど様々な商材があります。特徴的な商品として、FanZoneでは、ブランドのキャンペーンを紹介するコミュニケーション施策を用意しています。
また、AIを活用した熱狂連動広告「Moment Booster(モーメントブースター)」を2025年2月から提供しています。これは、サッカーのゴールの瞬間などのモーメント動画をXでシェアできる機能で、その動画にブランドインテグレーションを施すことで、スポーツの熱狂とともにブランドへの共感を喚起できます。

DAZNの広告の強みは、ファンの感情に寄り添った広告展開ができることです。スポーツはファンダムが活発なので、ファンに共感してもらえれば、ブランドを共有・拡散してくれます。そのため、ブランド・エクイティを高めることにつながります。
さらに、スポーツ領域の広告は効果が見えづらい点がこれまでの課題でした。データを活用したROIの可視化に注力し、強化しています。データと感情に基づいた広告を実施し、その成果もきちんと把握できる。それがDAZN広告の目指す姿です。
――スポーツは試合の展開がリアルタイムで変化し、状況が一瞬でひっくり返るケースもあります。ファンの感情の変化も予測しにくい部分があるかと思いますが、この点はどう対策しているのですか?
黒川:データとAIを活用しています。Moment Boosterでは、熱量が高まっているシーンをAIで分析して自動で検知するなど、ファンの感情や試合の流れを的確に捉えるようにしています。たとえば、野球でホームランが出たときに、大差で勝っているチームの選手が打った場合と、負けているチームの選手が逆転ホームランを打った場合では、ファンの喜怒哀楽は大きく違います。そういう文脈をきちんと捉えることが重要です。
行動意向が広告非接触者より+13.8%、クレディセゾンの事例
――具体的に、効果が高かった事例を教えてください。
黒川:クレディセゾンの施策では、サッカー日本代表のワールドカップ出場が決まった直後にお祝いのL字広告を出したり、協賛番組の公開収録でファンと直接触れ合う機会を作ったりして認知向上を図りました。その結果、広告非接触者と比べて、クレディセゾンへの申し込みに対する行動意向が13.8%、JFA(日本サッカー協会)への協賛に対する認知は48.3%高くなりました。リフトアップの観点でも、広告非接触者と比べて行動意向は約28倍、協賛認知も約2.4倍のリフトアップとなりました。

DAZN広告の成功事例の共通点は、ブランドがスポーツやファンの“文脈”を理解していることです。ファンに受け入れられるようなコミュニケーションができれば、広告の効果は高まります。
――ご紹介いただいた事例は金融業界です。スポーツに熱中しているタイミングで、生活者にとって冷静な取捨選択が必要な金融商材の広告が入るのは少し意外な気がしました。
笹本:調査によると、DAZNユーザーは非ユーザーと比べて購入意欲が3倍高いそうです。スポーツを積極的に見る人は、遠征やグッズ購入、スタグルなどを楽しまれる方も多いです。ですから、スポーツと金融業界は相性が良いのです。
黒川:別観点では、クレジットカード業界には「やりたいことや夢の実現、体験の充実をサポートしたい」という思想があるそうです。その意味でも、スポーツと“理念の共感”があるのだと思います。