合意形成が整うと、施策スピードが格段に上がる
──では逆に、合意形成ができていると、どんな良いことがあるのでしょうか?
富家:合意形成が整うと、施策のスピードが格段に上がり、アウトプットの質も高まります。なぜなら、関わる人すべてが「なんのためにやるのか」という共通のゴールを見失わずに進めるからです。
例として、弊社がICCサミットという「ともに学び、ともに産業を創る」をコンセプトとするカンファレンスに協賛したときのエピソードを紹介します。
ICCサミットの会場では、当日のプログラムなどが記載されたカタログが配布されます。そこにはスポンサーの広告枠があり、それをどう活用するか議論していました。ICCサミットには、「学ぶことに対して真剣であり、ともに学び合い・産業を創っていく」という強い理念があります。私たちマーケティングチームもその理念に共鳴し、その広告枠にただ広告を載せるのではなく、参加者にとって参考書にしてもらえるような「学びあるコンテンツ」を掲載することを代表に提案し、実行しました。

富家:このようにイレギュラーな形で広告枠を使うことを実現できたのは、「自分たちは主催者の理念に対してどういうスタンスで臨むのか」「参加者にとって価値ある体験は何か」という理想状態が事前に合意できていたからだと思います。
理想状態の合意が取れていると、クリエイティブ制作やノベルティの方針も自然と揃っていき、本質から外れた議論が減っていきます。
──理想状態のすり合わせと合意が、いかに重要かが伝わってきます。
富家:はい。理想状態のすり合わせは、課題設定を行うときにも必要です。ついつい自分が気になっていることを課題だと言いたくなりますが、解決すべき課題は、理想と現状の間にしかありません。BtoBマーケティングで成果を出そうとすると解決しなければいけないことがたくさんあります。だからこそ、まずステークホルダーとともに理想を明確にし、その理想と現実のギャップから課題を導く必要があります。
「8つの視点」と「CABフレーム」で合意形成を円滑に
──ここまで、社内の合意形成や前提のすり合わせの重要性について確認してきました。では、富家さんが考案された「8つの視点」と「CABフレーム」について、それぞれ教えてください。
富家:どちらも思考をシンプル化するためのフレームワークで、今日は概要をご紹介します。
まず、「8つの視点」とは、ステークホルダーとの対話や意思決定の際に押さえるべき重要な視点を整理したものです。その8つには、基準・課題・役割・優先度・打ち手・オペレーション・アウトカム、そして評価が含まれます。ビジネスやマーケティング施策の振り返り、PDCAの観点としても使えますし、今後AIとの連携が深まる中で、「どの視点で問いを立てるか」という思考の設計にも役立ちます。

議論をしていて「なんだか噛み合わないな」と感じたとき、このシートを使って、どの視点が欠けているかをチェックできます。するとたとえば「これは優先度の話がズレてるな」とか、「アウトカムについて問われているんだな」といった気づきが得られます。感情的に受け止めてしまう前に、論点を冷静に捉え直すためのフレームとして、非常に有効だと思います。
「8つの視点」で議論を深めた後、合意を取るためのフレームが「CABフレーム」です。「Category(施策区分)×Achievement(達成度)×Balance(比重)」という3軸で施策を整理し、理想と現状のギャップを可視化するだけでなく、課題解決の方針とそれらに取り組むリソース配分を明らかにします。

相手がマーケティングの知識をあまり持っていなくても「どの施策がどのくらい実行できていて、これからどこを強化するのか」を一枚のシートで把握できるというのが、使い勝手が良いと思っています。どんなに深い議論でも、アウトプットがなければ雑談で終わってしまいます。だからこそ、8つの視点で「前提」を揃え、CABフレームで「出力」する。これにより意思決定と合意形成が圧倒的にスムーズになり、アクションに割く時間を捻出できるようになります。