BtoBマーケティングの呪い(思い込み)から解放されよう
──合意形成を円滑にすることは、事業成果をあげることはもちろん、マーケター自身が気持ちよく働くことにもつながりそうですね。
富家:その通りです。BtoBマーケターには“呪い”のようなものがたくさんあると感じています。たとえば「マーケティング施策の成果はすべて定量的に可視化すべき」「定量目標でなければ目標ではない」「施策の成果はROIで語られないとダメだ」といった思い込みですね。
こうした固定観念が、「目の前の施策実行に忙殺されて振り返りもままなっていない。事業成長をドライブさせる本質的な課題解決に向き合えていない、施策の成果を定量的に測ることもできていない自分は、マーケター失格ではないか?」という自己否定につながり、自己肯定感を下げてしまうことがあります。もちろん全て大事なことですが、状況によってはどうしてもできないこともありますし、他の取り組みの優先順位を上げざるを得ないこともあります。

富家:私自身の体験をお話しすると、EVeMに入社して最初の1年は、マーケティング施策の成果を可視化・数値化できていませんでした。データ上の振り返りができない状況で施策を実行し続けていたのは、もう本当に辛かったですね(笑)。本まで書いてるのに「自分はやれてないじゃん」と。
そのとき最終的にたどり着いたのは、「教科書的にはやるべきだし、目指すべき状態ではあるが、小さなベンチャー企業で事業の成果にまっすぐ向き合った結果、今はやらない」という判断でした。この判断について社内の合意形成が整い、自分自身も納得できていれば、できていないことに過度に落ち込むことなく、目の前の重要な仕事に気持ちよく集中できていたと思います。
「マーケティングはROIがすべて」「データがないと意味がない」といった思い込みは、それくらい強力なんですよね。でも、「8つの視点」や「CABフレーム」で整理してみると視野が広がり、「あ、今はこういう観点で考えたほうがいいな」と気づくことにつながると思います。
BtoBマーケターが身に着けたい「前提をそろえる力」
──最後に、社内での提案や合意形成に悩むマーケターがまず取り組むべきことや、心がけたいポイントがあれば教えてください。
富家:私が強く思うのは、BtoBマーケターが担っている役割を捉え直したほうがいい、ということです。よく「施策を考えて実行する人」として語られがちですが、実際にはもっと広い視野と推進力が求められています。
具体的には、組織の中にある硬直した仕組みや、目に見えない対立構造に対して、新しい視点や問いを投げかけていく“ファシリテーター”的な存在ではないでしょうか。これからの時代、多くの作業はAIに代替されていきます。だからこそ、単一のKPIやチャネルだけを見るのではなく、経営全体を俯瞰して「どこからどう解決していくべきか」「そもそも理想はどんな状態か」と問いかけられる思考力が大切です。
そして、目指す成果が大きくなればなるほどプロジェクトが大きくなり関わる人も増えます。自分一人で答えを出すのではなく、関係者が持つ一次情報と意見をうまく引き出していく役割が求められるのです。これはまさに“プロジェクトマネージャー”ですよね。私は最近、BtoBマーケターはプロジェクトマネージャーであるべきだと思っています。
その中で力を発揮するために何よりも重要なのが「前提をそろえる」ことです。「この施策をやるかどうか」ではなく、「そもそも何を実現したいのか」という合意を作る。それができれば、言って終わりにならず、物事を動かせるマーケターになれるはずです。
そのためのフレームとして「CABフレーム」を用意しています。今日は概要の紹介に留まりましたが、イベントではより詳しい使い方を説明し、皆さんのマーケティング活動のお役に立ちたいと思っています。