Z世代を動かすのは「自分ごと化」の条件
Z世代のサステナ行動を後押しする上で欠かせないのが、「自分ごと意識」である。これは社会課題を自分の問題として捉え、その関与や責任を感じる意識を指す。しかし、2025年の日本リサーチセンターによる社会調査によれば、この自分ごと意識はZ世代ではやや低く、前後の10代や30代と比べても弱い(数表5)。

サステナビリティに対するイメージを見ても、世代差は明確だ。まず、若年層にしばしば投げかけられる「サステナビリティを意識高い系・表面的に感じる」といった否定的な印象は、Z世代でも約2割(20.3%)にとどまっている。アンケート調査であるため、ハロー効果(自分をよく見せようと回答する傾向)の影響も考えられるが、全体的には他世代より高いものの、特段際立って高いわけではない。
一方で注目すべきは、40代以降で約半数が持つ「他人や社会の役に立つ」という利他的な印象である。その他、30代以降で高まる「勉強になる・成長する」や、高齢層で多い「新しい発見がある」といった前向きな評価を含めて、Z世代では相対的に低い(数表6)。

このことは、サステナビリティ訴求にありがちな、純粋な利他性訴求(「他の誰かのため」「環境のため」「地域のため」といった、自分以外の誰か・何かを利する構図の訴求のこと)がZ世代に刺さりにくいことを示唆しているとも言えるだろう。関連する研究でも、日本人は「やりすぎた親切」をマイナス評価する傾向があるとされ、周囲の目を気にするZ世代が利他的行動をためらう背景には、こうした「見えない空気(世間)」による同調圧力が影響している可能性がある。むしろ、押し付けられているような印象や上から目線のメッセージは逆効果になりかねない。
「感情×楽しさ×即理解」で行動を生む――CEPsで読み解く設計の勘所
それでは、Z世代にはいったい何が響くのだろうか。そのカギの一つは「自分が楽しめる」要素を組み込むことだろう。日常生活の延長線上で、ゲーム感覚や遊び心を伴ったアクション設計には受容の余地がある。
「どのような条件なら行動したくなるか」という持続可能性についての動機付けに関する調査を見ると、30代以降で高まる「地域が経済的に豊かになるなら」といった利他的な動機はZ世代では低い。その代わりに、「自分が楽しめるなら」「時間がかからないなら」といったタイパ(時間対効果)・コスパ(費用対効果)志向が高い傾向が見られる(数表7)。

この結果からすると、Z世代にサステナ行動を促すには、短時間で達成感を得られる設計と、支出負担を抑えつつ自己満足感を得られる仕掛けが有効だと言える。
さらに、近年マーケティングの実務で注目されているCEPs(Category Entry Points/カテゴリーエントリーポイント)の考え方でZ世代に対するサステナ行動促進の糸口を考えてみたい。
冒頭で紹介したファミリーマートの「涙目シール」は、その好例だ。CEPsの視点で分解すると、次の3つのトリガーが重なっていることがわかる。
感情トリガー:キャラクターによる「共感」や「自分ごと化」を促す感情刺激
体験価値トリガー:意識の高さを押し付けない遊び心ある表現で、「楽しいからやる」という参加意欲を引き出す
機能的トリガー:一目で「食品ロス削減」という社会的価値を理解できる明快さ
この「涙目シール」の取り組みには「感情」「体験価値」「機能」の三拍子が揃っており、購買という日常行動が自然に社会貢献につながっている。その上で、レジ前や棚前といった即決シーンで、面倒さを感じさせないワンアクション完結型であること、購入直後に成果を実感できる即成果実感があることも強みとなっている。
Z世代を動かすアプローチの1つとして、感情を揺さぶり、楽しさを伴い、社会的価値を即理解できる、このような三位一体の設計が行動変容の引き金になっていくとも考えられるだろう。
さらに、この施策はSNSとの相性も良い。かわいらしく共感しやすいデザインは自然にシェアされ、Z世代の発信意欲を刺激する。一般的に、こうしたUGC(ユーザー生成コンテンツ)は通常の広告投資を上回る波及効果を生む可能性もあるだろう。