大学生が語るリアル。「みんなが楽しい」を作るための気配り
ここからはアンケート結果を大学生とともに眺めながら、かれらの言葉に耳を傾けたいと思います。
飲める人のアンケート結果【図表2】では「飲めない人や飲めるけど飲まない人への理解が進んだ」という項目が男女20代で著しく高くなっていました。この背景をかれらとともに探ってみると、20歳を過ぎてサークルやゼミ、あるいはバイト先など、お酒も並ぶ食事機会が急激に増え、「飲む・飲まない・飲めない」というお酒にまつわる多様性を目の当たりにしたことや、自分自身とお酒との相性を理解したことが理由にあるのでは、という実感のこもったコメントが溢れ出しました。
また、「飲めない人や飲めるけど飲まない人へ気配りするようになった」についても、お酒のある場では、友人や先輩・後輩の飲みものや酔いの程度をウォッチしつつ、参加したみんなが楽しい時間を過ごせるようになんとなく気配りをしているかも、といった声も挙がりました。「お酒を飲む・飲まない・飲めない」への気配りというものでなく、「みんなと過ごす時間をより楽しいものに」という「良き体験」への配慮と捉えたほうが正しいのかもしれません。若者の特性として「体験重視」といった志向が取り上げられますが、かれらの発言からそうした価値観とも通じるものを感じました。
飲めない人のアンケート結果【図表3】では、「お酒は飲めませんと言いやすくなった」という項目が女性の若年層を中心に高くなっていました。この点についても、現在では各自が好きな飲みものを自由に頼む時代に変化しており、「とりあえず生!」の風習はかれらにとってはすっかり昭和レトロなものとして笑い話になっていました。コロナ以降、お店の専用アプリから個々人が注文できるスタイルも広がり、アルコール、ノンアルを問わず「好きな飲みものをいつでもだれでも」という具合にオーダーがしやすくなった、という声も多く挙がっていました。
かれらの言葉に耳を傾けているとお酒のあるシーンに限らず、「個性や多様性の尊重」という意識がごく自然にかれらの深部に根付いていることを感じました。また、実際にお酒も並んだインターン期間中の懇親会では意識としてだけでなく行動にも反映されていることもわかりました。具体的には専用アプリから各自が自分のペースで好きなものをオーダーする様子や、自分のオーダーのついでに私たちの空になりかけたグラスを指さして、「次、何か頼まれますか?」と声をかけるなど、実にスマートに「多様性の尊重」を実践していました。
学校教育においては1980年代頃から「個性の尊重」という文脈でその実践が進んでいました。その後、「個性の尊重」は「多様性の尊重」、あるいは「そもそも、一人一人が違うもの」という認識へと拡がり、子どもや若者を中心に定着していきました。一方、社会や企業における「多様性」を重視する動きは2000年頃から強まったと言われており、当初は少子高齢化による労働力不足や人種問題の解消などを念頭に「ダイバーシティ」という言葉などとともに広がっていきました。
そうした時代的な流れを踏まえるとかれらに内在する「個性や多様性の尊重」という価値観やそれらに根差した立ち居振る舞いがずいぶんと長い年月を経て醸成されてきたことがわかります。
さらに、かれらの話に耳を傾けると高校生くらい(2020年頃)から「ハラスメント」という言葉も授業で頻繁に取り上げられるようになり、相手がどのように感じるか、という「受け手(他者)への配慮」を大切にしようとする心の働きがある、という話もありました。
こうしたZ世代の価値観は、別の調査結果からも裏付けられています。Well-being(心身共にしあわせな状態)であるために大切だと考えている価値観を尋ねたアンケート結果をひも解くと「多様性が尊重される」については、男女ともに10代・20代をはじめとした若年層の方が他層よりも高い傾向であることがわかりました。また、「自分の意見や気持ちを素直に表現できる」という項目についても同様の結果となりました。
男女別という視点でみるとどちらの項目も女性のほうが高くなっていることに目が留まったことから、かれらに意見を求めてみたところ、女性のほうが多様性の尊重や意見や気持ちの表現について、まだまだ難しさを感じていることが多いからではないか、といった声が挙がりました。難しさに直面する機会が多いことの裏返しとして、より大切であると受け止めているのかもしれない、という意見に想いを重ねずにはいられませんでした。
![【図表4】[データ:SDGsに関する調査]全国 10,576人 15~69歳](https://mz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/49832/49832_4.png)
データ:SDGsに関する調査 全国10,576人(15~69歳)
若者が本当に求めているものから見えた、体験デザインのヒント
お酒のある場への期待としては「コミュニケーション」というキーワードも頻出していました。テーブルを囲む人と自然と距離が縮まってしまう場のチカラ、「普段はできない話」がふとこぼれてしまう場のチカラなど、お酒のある風景に宿る「場の魔力」を口々に語ってくれました。また、お酒を飲むことが前提となっていそうな「飲み会」という枕詞で誘われると身構えてしまうものの、「みんなで食事」として誘われると気持ちも足取りもふっと軽くなる、という言葉も心に残りました。かれらが離れているのは「お酒」ではなく「飲まないと・飲めないといけない空気」なのかもしれません。
Z世代のお酒にまつわる意識や行動にみられる特徴は「飲む・飲まない・飲めない」の線引きではなく、シーンや気分に応じて柔軟に飲みものを選択する姿勢でした。また、ともに過ごす時間をより良いものにしたいという意識でした。さらにそこには、個性や多様性の尊重、そして相手を思いやる配慮がごく自然に組み込まれていました。かれらに内在するこれらの意識を理解することはアルコール市場に限らず、飲食業やファッション、エンタメなど、様々な領域に通じるヒントとなるはずです。
若者が大切に感じているのは「その場の状況や自分に合う選択肢の幅」や「だれもが心地よく過ごせる体験」なのではないか。これからの企業やブランドが提供すべき価値は生活者一人ひとりの商品・サービスへの関わり方に寄り添う“体験デザインの力”ではないでしょうか。
【調査概要】
【1】インテージ定例調査
対象者:日本全国 20~69歳男女個人
標本サイズ:n=2,349s ※国勢調査にもとづき性・年代・地域を母集団構成に合わせて回収
調査実施時期: 2025年6月28日(土)~2025年6月30日(月)【2】SDGsに関する調査
対象者:日本全国 15~69歳男女個人
標本サイズ:n=10,576s ※国勢調査にもとづき性・年代・地域を母集団構成に合わせて回収
調査実施時期: 2024年12月20日(金)~2024年12月23日(月)
[執筆]
株式会社インテージ 生活者研究センター 田中宏昌
関西学院大学 人間福祉学部 社会起業学科 森藤ちひろゼミ
佐藤優羽、嶌嵜実加、土居夕真、畑野眞子

前列左から 佐藤優羽、嶌嵜実加、畑野眞子