「理論」と「実践」を両立させるために
MarkeZine:R&Aセンターを立ち上げた後、具体的にはどのようなアプローチでデータドリブン・マーケティングの内製化に取り組まれたのでしょうか?
寺島: KDDIとアクセンチュアの合弁会社であるARISE analyticsと協業し、データ分析人材の育成と、業務フロー改善の両方から、内製化に向けた取り組みを進めています。ARISE analyticsにはR&Aセンターを立ち上げるタイミングから入ってもらい、「R&Aセンターを起点にどういった組織・人材を強化していくのか」を、弊社の経営陣も交えて議論しながら、組み立てていきました。
MarkeZine:ARISE analyticsとの協業で内製化を進められているんですね。では「人材育成・組織強化」に関する取り組みについても教えてください。
寺島:データ分析の教育カリキュラムを「ベーシック」「スタンダード」「アドバンスト」の3レベルで作成し、社員それぞれが業務で求められるレベルに応じて研修を実施しています。
大きなポイントは、経営層もスタンダードのカリキュラムを受講した点です。経営層自らが学ぶ姿勢を見せたことで、メンバーにも「会社が本気でデータドリブンを推進しようとしている」というメッセージが伝わり、一人ひとりの熱量の向上につながりました。
さらに、組織全体で前向きに知識の定着を図るために、データ分析の社内コンテストを開きました。各部がデータ分析を活用した取り組みを発表し、部長レイヤーが講評するというイベントで、非常に盛り上がり、データ分析に対するポジティブな意識を根付かせることができたと感じています。
MarkeZine:社員の自発的な学習意識を高めるために、様々な施策をやられているのですね。一方で、「知識は身についても、実際の業務でスキルを活かせない」という課題を抱えている企業も少なくありません。KDDIでは、教育の成果を実務に活かすためにどのような取り組みをしていますか?
寺島:ARISE analyticsの担当者に現場業務に直接入ってもらい、OJT形式で実践力を磨いています。R&Aセンターの設置以前から各部署でデータ分析を担当していたメンバーも、機械学習などの高度なスキルを元々持っていたわけではありません。ですが、ARISE analyticsと一緒に実務を進めるうち、ハイレベルな分析手法を使いこなすメンバーが増えてきました。
ゴールは「KDDIの自走」、事業会社と支援企業の双方に利のある協業の形
MarkeZine:内製化を進める上で、外部のパートナーにはどういった要素が必要だと思われますか?
寺島:1つは、長い目で見てクライアントのためになる情報を提供する姿勢だと思います。
当たり前ではありますが、支援会社が支援先に対してノウハウを細部まで共有することは多くありません。自社のビジネス価値を維持するために、当然必要なことだと思います。とはいえ、発注する側としては、半永久的にコストがかかる上に、いつまでも自社内に知見が溜まらず、支援会社に依存し続けることになります。
その点、ARISE analyticsの協業は「KDDIの自走」という共通ゴールのもと、ARISE analyticsから細部までノウハウが共有されるのが特徴です。一方、データやAIなどテクノロジーの関連分野は特に市場の変化が激しく、事業会社が自社でそこにキャッチアップし続けるのはなかなか難しいですよね。この協業では、「KDDIに知見やスキルが蓄積されていく×ARISE analyticsは新たな最先端の領域でKDDIを支援する」という好循環が生まれています。

また、KDDI側のリテラシーが向上するにつれて、ARISE analyticsの助言を解像度高く理解できるようになり、コミュニケーションの円滑化につながっています。
MarkeZine:なるほど、両社にメリットがある形でパートナーシップを組まれているんですね。
寺島:ええ。加えて事業会社の現状やビジョンに寄り添って支援いただけるかも重要なポイントです。支援会社はその領域のプロであり、その会社ならではのアプローチやアウトプットのセオリーが存在しています。ただ、そのセオリーが事業会社に最適かというと、必ずしもそうではありません。
その点ARISE analyticsとの協業では、両社のレイヤー(経営層~現場)ごとに定期的にミーティングを実施するとともに、現場にも深く入って業務を一緒に進めることで、KDDIの現状と経営目標を踏まえた最適なアプローチを一緒に探ることができています。
