ストリーミング市場の次なる競争軸は「入口から出口までの獲得」
日本企業は、ライブコンテンツを、SNS配信の延長として自社サービスへ利用者を誘導する「釣り」程度に縮小して捉える傾向がある。DAZNの例も、Lemino(docomo)がボクシング・井上尚弥の一戦を無料開放したのも、同じ原理に立つ。
しかし本質的に問われているのは、その入口で獲得した視聴者を、自社利用の長期ファンとして、毎日繰り返し使えるかどうか、第二の柱であるドラマなどの制作コンテンツへ結びつけられるか、リテールメディアとして小売・金融と結びつけられるかどうかである。
巨額の価値を持つコンテンツを所有すれば、視聴者が最初に接触する濃い「入口」を押さえられる。その先には、スマートTVのホーム画面・OS・会員IDといった大きな「出口」が広がる。次の競争は、この入口から出口までを誰が握るかに移った。
事実、図1で上位に並ぶ米国企業はいずれも、AmazonのEC・AWS、Comcastの通信網、Googleの広告・AI、Disneyのエンタメ資産、Appleのデバイスといった強力な母体ビジネスを、出口の土台として備えている。
FOXが獲得した視聴者との直接接点
FOXが約3.5兆円を投じてRokuを手に入れた背景には、視聴者との直接接点を握り直す狙いがある。
Rokuは、テレビに接続する箱型デバイス販売から出発し、USBスティック型を経て、いまではストリーミング機能を内蔵したテレビも展開する配信プラットフォーム企業へ成長している(図4)。買収発表時点で、Rokuは約9,000万のストリーミング世帯(アカウント)を持ち、広告や配信プラットフォーム事業から年間約6,200億円(約41.4億ドル)の収益を生んでいる。3.5兆円の買収額を割り戻すと1アカウント当たり約39,000円、年間収益は1アカウント当たり約7,000円で、利用基盤の拡大が続けば5年で投資回収できる勘定だ。
同様の事例として、WalmartによるVizio(コネクテッドTVデバイス)買収がある。Vizioは1,850万世帯のオンライン契約の基盤を持ち、買収額は約3,450億円(約23億ドル)、1世帯当たりで割れば約2万円だった。
FOXは今回の買収で、広告・販促露出・会員限定コンテンツを展開するための強力な顧客接点を獲得した。極端にいえばテレビのリモコンに「FOXボタン」を置くこともできるのだ。「入口=もともと持つスポーツ放映権」から「出口=視聴者との直接接点」までを一貫して押さえたことになる。
ひるがえって日本の放映企業は、この巨額の放映権競争に踏み込む資本力を持たない。民放5局が連携するTVerはMAU4,470万という無料視聴者基盤を築き、黒字転換も果たしたが、それは国内向け・無料の見逃し配信という「閉じた領域での黒字」にすぎない。巨額の放映権もライブの熱量も持たず、第二の柱である編集コンテンツも日本語・日本文化に閉じて海外で伸びにくい分、成長余地は頭打ちに近く、2026年3月期のTVerのグループ3社合計での純利益は前年比で約90%減である。
FOXの今回の買収から、日本企業は大きな示唆を得られる。ストリーミング配信やコンテンツ、CTV広告を単なる集客の「釣り」と捉えるだけでは不十分だ。問われているのは、顧客接点を蓄積する「貯水池」としての基盤・エコシステムを構築できるかどうかである。どの企業が、どれだけの資本を投じ、どのような出口戦略を描くのか──キテカン(起点観測)していきたい。
